第28話
「今日、沙耶香ちゃんは来てないのか?」
「今日ねぇ……見てないねぇ……」
「じゃぁ、休みか」
そう呟き、肩を落とす。
「まぁねぇ……イトコが殺されてからぁ……来てないねぇ……」
飯田昌代の事はもう知れ渡っているのか。
ニュースでも頻繁にやっているし、沙耶香自身が有名人なのだからそれは特におかしな話じゃない。
「じゃぁ、沙耶香ちゃんと連絡取ってる子を知ってるか?」
「さぁねぇ~……? だいたいのヤツがぁ……あの子の携帯知ってるはずだけどぉ?」
「君は? 君は知ってるのか!?」
こんなアホっぽい男と沙耶香が仲良くメールや電話のやりとりをしているかもしれない。
そう思うだけではらわたが煮えくり返りそうで、藤堂は怒鳴るように聞いた。
青年はオーバーに顔をしかめ、指を両耳に突っ込んでから、
「俺はしらないねぇ……。飯田沙耶香……別にどうでもいいからぁ……」
と、言った。
その言葉に、藤堂はホッとしたように表情を緩めた。
「飯田沙耶香よりぃ……飯田昌代の方が好みだねぇ……」
「お前、飯田昌代と知り合いだったのか?」
青年は、ペロッと舌を覗かせて風船ガムを膨らませ、パンッと小さく破裂し鼻の頭にへばりついたガムを、親指と人差し指でつまんで、また口へと持っていく。
ウゲッ、見ていて気持ちが悪い。
まるで小学生だ。
「ニュースで見ただけぇ……」
藤堂は、沙耶香が精神的に落ち込んでいるのではないかと思い、他の生徒から何か情報を聞きたいと思ったが、タイミングが悪くチャイムが鳴り出した。
昼休憩、終了だ。
目の前にいた青年は、チャイムが鳴り始めると同時に教室の中へと姿を消した
「なんだよ、まったく」
無駄なことで時間を使ってしまった。
結局沙耶香には会えないし、爽香の情報を得る事も出来なかったじゃないか!
そう思うと急に脱力し、お腹の虫が悲鳴を上げた。
何が何でも牛丼を食っておけばよかった!!!
藤堂と別れ、教室内へ戻った青年は、ズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
机の上に両足を投げ出し、メール画面を開く。
その指が、登録メモリの中から一つの名前を呼び出した。
《メール宛先: オルフェウス》
それから青年はなれたように先ほどの藤堂とのやり取りを、メールに打ち込み始めた――。
藤堂は、知らなかったのだ。
この青年が、飯田昌代の葬式の駐車場に姿を現した、あの男だということを……。
☆☆☆
冬我の話を聞いている内に山道は下り、目の前に広い民家が広がっていた。
「……ついた」
沙耶香がそう呟き、ようやく幸也の手を離した。
冬我はネコとの出会いをまだ真剣に話していたが、辺りの景色を見ると自然と静かになった。
「幽霊の携帯電話。その噂の発祥の地だ」
一番前に立って歩いていたネコが振り返り、そう言った。
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