第29話
そこはごく普通の田舎の町並みで、変わった所などどこにも見当たらない。
それ所か、人の姿が見えなかった。
「本当に、ここ?」
沙耶香が、不安そうにネコへ問いかける。
噂の発祥の地。ということで、ある程度栄えた場所なのだと勝手に思い込んでいた。
しかし、パッと見たところこの町には噂好きな女子高生の姿などマッチしない。
遊ぶ場所どころか小さなスーパーさえ見当たらないのだから、若者の姿があるとは到底思えなかった。
「地図では合ってる」
と、ネコが一言そう言い、また先頭を歩き始めた。
沙耶香と幸也は視線を合わせて、幸也は不器用にウインクいてみせると無言のままネコの後について歩き出した。
「まずは町人を探すところからだな」
冬我が沙耶香の肩をポンとひとつ叩き、ネコと幸也の後に続く。
沙耶香は一人、しばらくの間その場から動けなかったのだった……。
☆☆☆
町について、30分が経過した。
トロトロと歩きながら目に入るのは、田んぼと山と川。時々、築三桁は行きそうな古い家。
それも、人が暮らしているとは思えない荒れようだ。
最後尾をついて歩きながら、沙耶香はポケットに手をつっこんだ。
「……あれ?」
途端に歩みを止めて眉をよせる。
その声に気付いた三人が同時に立ち止まり、振り向いた。
「どうした?」
幸也が聞く。
「ない……」
「ない?」
「ないの。山に入る前に拾った携帯電話が!」
思わず声を荒げて、スカートのポケットをひっくり返して探す。
けれど、ポケットの中は空っぽで、奥に入り込んでい埃がパラパラと地面に落ちただけだった。
「ネコ、どういう事だ?」
冬我がネコを振り返る。
ネコは目を細め、右手でヒゲの生えていないツルツルのアゴを触った。
「……おそらく、お役目終了ってことだろう。
ここから先は自分たちで考えろってことだ」
「ねぇ、待てよ。
それじゃぁあの携帯電話はやっぱり私たちをここへ導いてくれたのね? だとしたら、お姉ちゃんが……?」
その言葉にネコは軽く笑みをつくり、
「ま、そういう事かもな」
と頷いた。
「ねぇ、今お姉ちゃんの姿は見える?」
沙耶香が聞くと、ネコは呆れたような表情をして、
「人の言った事をもう忘れたのか?」
「……なんだっけ?」
「俺は霊の姿を見るためには、ある事をしなければならない。
普段は見えるんじゃなく、感じるだけだと言ったろ」
「あぁ……、そういえばそんな事聞いた気がする」
今日聞いたばかりの話だが、冬我の昔話しをききながら山越えをしたせいでコロッと忘れてしまっていた。
大げさに、いやみったらしくため息を吐き出してから、ネコはまた歩き始めた。
「なぁ、その《ある事》ってなんだ?」
今度は幸也がそう尋ねた。
「そうだネコ。もったいぶらずに見せてやれよ」
冬我はそう言い、後ろからネコをつつく。
ネコは相変わらず無表情のままうっとうしそうに振り向き、けれど意外にも
「そうだな」
と、素直に頷いた。
「ここから先は人づてに噂の根源を探すつもりだったんだが……。
その必要もないほどに霊気を感じる」
「つまり、その霊たちとコンタクトを取れば噂の根っこにいきつくってワケだ」
冬我がそうつけたして言いながら、その場から2、3歩後ずさった。
ネコはニッと不器用な笑みを見せて、
「お前たちも離れてたほうがいいぞ」
と言った。
わけがわからないまま、冬我に首根っこを掴まれてネコから引き離される沙耶香と幸也。
ズルズルと引きずられるようにして2メートルほど下がった後、不意にネコが左手首をギュッと掴み、眉間に深いシワを寄せた。
まるで、苦痛や痛みに耐えているかのような表情。
「ちょっと……大丈夫なの?」
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