第44話

 栗田の好きなクラシック音楽ではない。



 最近売れているアーティストの曲だ。



 沙耶香が、携帯電話の着歌に設定していた。



「……お姉ちゃん!?」



 弾かれたようにベッドから離れ、耳をすませる。



 栗田に腕をつかまれるが、それを振り払った。



「お姉ちゃん!? お姉ちゃんでしょう!?」


 自分と栗田しかいない部屋の中、飯田昌代を呼ぶ。



 その時だった。



 ばんっ!と言う音と共に、鍵をかけていたドアがぶち破られたのだ。



「誰だ!?」



 栗田が振り向いた、その先にいたのは――。


☆☆☆



何だ?



何でここに洋子がいる?



何が、どうなってんだ?



 降りしきる雨の中、冬我の頭はパニックを起こす。



 奈々子には姉がいる。



 それを知ったのは、奈々子の葬儀のときだった。



 他の施設に入っていた戸部洋子とは、その時に始めてであった。


「携帯電話を」



 そう言いながら、ネコが洋子のポケットをさぐる。



 すぐに、それらしいものに手が触れた。



 それを取り出すと、冬我が目を丸くした。



 今ではもう販売されていない、かなり旧式の携帯電話だったのだ。



「ネコ、こりゃぁ一体……」



「この携帯電話はおそらく戸部奈々子のものだ」


 そう言うと、今度は逆側のポケットをさぐるネコ。



 今度は、冬我もよく見覚えのある洋子の携帯電話が出てくる。



 奈々子の携帯電話は画面が割れているものの、今でもちゃんと起動し、電源が入っていた。



 つまり、奈々子が死んだ後もずっと洋子がこの携帯電話を使い続けてきたのだ。



 2つの携帯電話の着信履歴、メール送受信を確認していくネコ。



 冬我は、わけもわからずその様子を眺めていた……。

☆☆☆


「誰だ!?」



 栗田の怒鳴り声と共に入ってきたのは、幸也と新田だった。



 新田は片手に拳銃をかまえ、その銃口はまっすぐ栗田へと向いていた。



「幸也君!」



 沙耶香が驚いて目を見開く。



 幸也はポケットの中から沙耶香の携帯電話を取り出し、「また、君のお姉さんが教えてくれた」と言った。


やっぱり、お姉ちゃんが……。



「栗田信也、飯田昌代殺害容疑で逮捕する」



 新田の冷たい言葉が、すべての終わりを継げた……。

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