第21話

「え……? 君はB・P専門学校の生徒か!」



 ようやくその事実に気づいた幸也は目の見開き、唖然として紗耶香を見る。



 ネコと冬我は、ワケがわからず二人を交互に見つめる。



これは偶然だろうか……?



 ようやく芽生えた、疑問の心。



 しかし、幸也は知らなかった。



 そのことで、すでに自分の父親がオルフェウスを疑い、動き始めていたことなんて……。




 パソコン画面が赤や黄色や青色にチカチカと点滅して、新田は一瞬めまいを起こしそうになった。



 何年か前に問題になったポケモン現象を思い出す。



 光が点滅するテレビを見て入院した患者は数知れず。



 だというのに、自宅カメラの手ブレなどによって、未だにそれが改善されることはない。



 画面から目をそむけている間に、


「できましたよ」


 と、藤堂が言った。



「これでいいのか?」



「はい。


オルフェウスからの指令はこのパソコンへ送られてくるようにしました」


「そうか。


もしメールが送られてきたとしても、一人では開くなよ。


どんな細工がしかけてあるかわからないからな」



 念には念を。



 新田は藤堂にそう言い聞かせた。



 オルフェウスの文章を得るため、またオルフェウスに近づくために新田はサークルの会員登録をしたのだ。



 《セバス》というハンドルネームを使い、会社のパソコンから勝手に登録。



 誰かに知られれば文句を言われそうだが、家のパソコンで登録をして幸也に知られたら、また問題だ。


 新田はようやくシャットダウンされたパソコンにホッと息を吐き出し、指で目を押さえた。



「疲れましたか」



「あぁ。


派手な画面は見てられないな」



 そういう新田に、藤堂は軽く笑ったのだった。


☆☆☆


 幸也と沙耶香のやり取りに耳を傾けていたネコが、ゆっくりと口を開いた。



「お取り込み中悪いけど、『幽霊の携帯電話』についての話をしてもいいか?」



 自分たちが、事件が起きる前からの知り合いだったと言う事に驚きを隠せないままの幸也が、ネコに視線を移した。



「あぁ。悪い」



 返事をしながらも、心は半分上の空。


「『幽霊の携帯電話』ってのは、ある一部の地域での都市伝説なんだ。


トイレの花子さんほど全国に知られている幽霊ではないが、その都市ではかなり有名な話らしい」



「それは、どんな噂なの?」



「書いてある通りだ。


『夜歩いていると目の前に携帯電話が現れる。それを見ると、あの世へと導かれる』


っていうのが最も多い」




「あの世か……。


この噂、本当なのかしら」




 沙耶香の言葉に幸也が、


「そんなわけないだろ」


 と言い返す。



「本当にあの世へ行ってしまうなら、誰がこの噂を流したんだ?」



「噂が立つのは、生きて帰った人間がいるからか、最初から全部デマってことだ」



 と、幸也の言葉の後をネコが繋ぐ。



なるほど。



 そのくらいのこともわからない自分が、なんだか恥ずかしい。



「……今回の目撃者の証言が本当なら、生きて帰った人間の一人ってことだな」



 眉間にシワを寄せる幸也に、ネコは一つ頷いた。



「その紙に書いてある、都市伝説の発生の場所を見てくれ」



 そう言われて、沙耶香は紙に書かれている一番下の文字に目をやった。



《幽霊の軽帯電話の噂は、東京○○区をずっと奥に入った場所にある、小さな地区から広まった》



 その文字に驚いたように目を丸くし、幸也と沙耶香は同時にネコを見た。



 ネコはまた頷き、


「そう。


君のお姉さんが殺された場所からほど近いんだ」


 と言った。



「この噂をただの噂と聞き流すわけにはいかなさそうだな」



 超現実主義である警部を目指す幸也は、困ったように頭をかいた。



 第一発見者の言葉を信じていなかったわけではないが、ここまでリアルに幽霊だの何だのという事になってくると、警察の立場がない。



「悪かったな。


警察の出番をなくして」



 幸也の感情を読み取ったのか、嫌味ったらしくネコが言った。



 その時、隣で黙って話しを聞いていた冬我が勢いよく立ち上がり、



「じゃぁ行くぞ」


 と、車のキーを手に取る。



「え? 行くってどこにですか?」

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