第17話

☆ ☆ ☆


 紗耶香の部屋は、女の子らしさの塊のような部屋だった。



 ピンク地に白のフリルがついたカーテンに、ベッドの周りに置かれたピンクのクマのぬいぐるみ。


 極めつけは、天井から垂れ下がるピンクの天蓋(てんがい)。



 その部屋で、


「どうぞ座って」


 と言われても、男はなかなか座る勇気がない。



 しかし、ネコはといえばそんな事気にもせず、イチゴのクッションの上に可愛らしくチョコンと座った。



「えっと、まずは自己紹介ね」



 紗耶香がご丁寧にジュースとスナック菓子を出して来たので、雰囲気はまるで遊びにきたお友達状態。



 しかも自己紹介と来た。



「私の名前は飯田紗耶香です」



 にっこりと、誰もを魅了する微笑みを見せて挨拶をする。



 けれど、そんな笑顔でクラクラする人間はここには誰一人としていない。



「新田幸也」



「ネコ」



 2人は適当にそれだけ言って、出されたジュースを一口飲んだ。



 それはネコには甘すぎたようで、一瞬顔をしかめた。



「ネコ?」



 当然、紗耶香は疑問の色を浮かべている。



 幸也はそんな紗耶香の疑問を無視し、すぐに本題へ入った。



「昨日は、どうしてあの場所にいたんだ?」



「あの場所って……現場よね?」



「そうだ。


夜中に行く必要があったのか? それこそ不審人物だ」



 と、ネコは自分の事を棚に上げて人に詰め寄る。



 紗耶香は少し困ったような表情を見せて、


「う~ん……」


 と、うなり声を上げる。



 素直に、お姉ちゃんの遺骨が語りかけてきたように思えて。



 なんて言っても信じてくれないと思っているのだろう。



「どんな事でもいい、言ってみろ」



 ネコが、黒い瞳で紗耶香を見つめる。



 綺麗な、吸い込まれてしまいそうな瞳の闇。


 そして、それに導かれるようにして、口を開いた。



「実は、昨日お姉ちゃんの声が聞こえた気がして……」



「なんだと?」



 幸也が身を乗り出し、ネコは表情を変えなかった。



「火葬が終って、遺骨を目の当たりにしたとき。



なんていうか……お姉ちゃんが私に何かを伝えたがっている気がしたの」



「何かって?」



「それは、わからないけど……。


たぶん、真実を、だと思う」



 自信がなさそうに言う紗耶香に、ネコは一つ頷いた。



「確かに。


他殺の場合は魂がその場に残ったり、自分の大切な人の所まで飛んで行ったりして、真実を伝えたがることが多い」



 その言葉に幸也は、


「本当か?」


 と、今度はネコへ向けて身を乗り出す。



「ああ。


きっと、君にもう少し霊感があればお姉さんの声がハッキリと聞こえていただろう」



お姉ちゃんの、声が……?



 紗耶香の瞳の奥が、微かにうるんだ。



 しかし、それをグッとこらえて、


「どうしてそんな事がわかるの?」


 と、ネコに聞く。



 当然の質問だろう。



 ネコと幸也は一瞬目を見交わせ、それから、


「その質問に答える前に、苦いコーヒーを淹れてくれ」


 と言ったのだった……。


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