第33話 何度生まれ変わっても
翌日、私は再び王宮へ呼び出された。今度はフェザード侯爵のレオン様と共に。
怪我をしたアルバート様の代わりに、旦那様が陛下に報告していたので話は早かった。
アルバート様はレオン様にこう言っていた。
「こういうのはいかがです?クロエ王女の従えていた獅子の魔獣が、今度は同じ魔力を持つエレノアを主人として懐いている。エレノアを傷つけると魔獣が暴れる恐れがあるから、婚約者としてフェザード侯爵が責任を持ってエレノアを守る、と」
確かにそれなら納得してくれるだろう。
王女の魔獣というところを強調すれば、レオが宮殿を壊した責任も問われずにすむ。クロエも私なんだけど、そんなのみんなにはわからないもんね。
とにかく命の危機に直面した私が婚約者のレオン様を呼んだら、勝手にレオがやって来たことにしよう。私は宮殿の一画が半壊していたのを思い出しながらそう考えていた。
謁見の間の扉の前で、むん、とこぶしを握って気合いを入れていると、レオン様が苦笑しながら私に手を差し出す。
「そんなに意気込まなくてもランファール伯爵がうまく伝えてくれているから大丈夫だよ」
私がレオン様の腕に手をかけると、近衛騎士達が扉を開いて私達を中へ招き入れた。
完璧な問答の予習をしていたにもかかわらず、謁見はスムーズに終わった。
陛下はただ私達に感謝の言葉を伝え、褒美の希望を尋ねただけだった。私の魔力についても他言はしないように緘口令を敷いた事を告げ、魔獣も含めて悪用されないようにとレオン様に命じるだけで終わった。
王宮から侯爵邸に帰る馬車の中で、私はレオン様に尋ねた。
「陛下は何故私達を利用しようとはしないのでしょう」
私を使って
私自身の魔力も、覚醒した今は利用価値は高い。
「意外?」
「なんだか拍子抜けで」
レオの存在は脅威だ。
魔獣が出ると騎士団が討伐に行くとはいえ、上級の魔獣に対しては軍の被害も大きい。数百人の騎士をもってしても、易々とは倒せないと聞く。
レオのような神直属の従獣といえば、上級魔獣の比ではないだろう。彼の力を得ることが出来れば、周辺国からの侵略の恐れも魔獣の脅威もきえうせる。さまざまな交渉を有利に進めることも可能かもしれない。
〈世界を滅ぼす〉
以前レオン様が言っていた事もあり得ないことではない。
「陛下は私に君を守る様にと言っただろう?」
レオン様はクスリと笑って宮殿の方角へ顔を向けた。その顔は笑っているのに少し冷たい。
「陛下も無知ではない。
手に余る武器は持たない方が良い、と言う事だろうか。
私は彼の綺麗な横顔を眺めながら、改めて一瞬で兵士達を無力化した事を思い出す。
「その代わり、君がこの国内にいる限り、この国も守護されることになるからね」
そう言って私の手を握った。
「それより、どうして褒美をアレにしたんだ?」
私は今回の褒美として、国王陛下に魔術師がその能力を隠さなくても良いように政令を出す事を願った。
「自分の為にでもあるんだけど、魔力を持っているだけで差別されている人がいるのはどうかなと思うから」
聖女と呼ばれる前のルナの時は大変だった。後のフェザードでは聖女の地位がしっかりしていたから、私は神殿で病気の人の治療の手伝いなどもしていた。過去に温熱療法や電気治療、電気メスがわりの手術の止血なんかを研究していたこともある。
国内の魔術師にも医術に長けた人がいるはずだ。他にも便利な能力を持っている人がいるかもしれない。知らずに埋もれさせるのはもったいない。
そう説明すると、レオン様は私の手に口付けて微笑んだ。
「君らしいね。偏見を取り除くのはなかなか簡単ではないだろうけど」
「わかってる。だから物語を書こうかなと思って」
「物語?」
「クロエが魔女と呼ばれているのも悲しいし、クロエ王女が主人公の物語を書いたら少しは魔術師を見直してくれるかな。自分がモデルって少し恥ずかしいけど」
ソフィアお嬢様にまかせておけば、出版してお茶会で宣伝もしてくれるだろう。
「爵位をくれるというのも断ってしまったけれど、本当に良かったのかい?」
「父様と母様には悪いけど、私には必要ないものだから。ね、レオン様。私をフェザード領へ連れて行ってくれるのでしょう?」
そう尋ねると、レオン様は漆黒の瞳をきらめかせて頷いた。
ああ、本当にイケメンだわ。
猫の時も可愛かったし獅子の姿も綺麗だけど、やっぱりこの姿が一番好きだ。
「姫、いいかげん、様を付けるのはやめてくれないか」
「……レオン?」
「そうだ」
彼は腕を伸ばして私を抱きしめる。
やっとここに帰って来た。
彼の元に。
そう言えば……。
ふと思い出して私は顔をあげて尋ねた。
「最初に会った夜、獅子の姿でベッドに来た?」
ああ、と彼は頷く。
やっぱり夢じゃなくて、あれはレオの姿のレオンだったんだ。
「触れた途端に気絶するものだから驚いた。思わず死んだのかと思って服を脱がして心臓の音を確かめた」
それで私は裸同然だったのね!
「
「だって奏はいつもパジャマは着ずに寝てたから」
う、確かに毎晩キャミソールにパンツだけで、猫のレオンを抱いて寝ていたわよ。
「でも、それは貴方が猫の姿だったから!」
真っ赤になって反論すると、彼は一瞬固まった後、意地悪くニヤリと笑みを浮かべた。
戸惑う私の首筋に軽く噛みつき、低く色っぽい声で耳元に囁く。
「今更だろう?姫」
ゾクゾクしたものが背中を這い上がる気がして、私は震え上がった。
思い出しただろう? と問われた私は、クラクラする頭を彼の肩に埋めてこくりと頷く。
「君は永遠に私のものなのだから」
ああ、そうだ。
私はいつも彼に攫われるのだ。
何度生まれ変わり、彼の事を忘れても、きっとまた好きになる。
私の肩を掴んで、彼の漆黒の瞳が私の金の瞳をとらえた。
「愛している」
そして黄金の獅子王はゆっくりと私にキスした。
*****
最後まで読んでいただきありがとうございます。
楽しんでいただけていたら嬉しいです。
お気に召しましたらまたこの物語を訪れていただけると幸いです!
……感想いただけたらヤル気出ますので、応援してやってもいいよという方お願いします。
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