第23話 お茶会は意外と楽しい

 レオン様にあんな謎の台詞を言われたくせに、もう遅いからと部屋に戻されて、契約って誰と誰の?レオン様と何か契約したっけ?とぐるぐる考えてるうちにいつの間にやら寝ていたわ。

 全く、我ながら悩みと縁が薄いというか、まあ、これが長所よね。

 大体のことは寝たら解決するものよ。


 ……えへへ。

 レオン様に告白されちゃった。

 聖女云々関係なく私のものだって。

 本当に信じていいのだろうか。

 信じられるかどうかは、私が彼の記憶を思い出すしかない。

 思えば初めから彼はそう言い続けている。

 そして、記憶はなくても、もう私は彼に囚われている。




 約束した通り、ソフィアお嬢様に連れられて私はリューベル伯爵家を訪問した。

 馬車を降りて邸宅の入り口に立つとすぐに、出迎えた執事にガラス張りの美しい温室に案内された。

 外の緑が光に照らされて綺麗な花も咲いている。

 そこは冷たい風を避けつつ、手入れされた庭を見ながら話ができるようになっていた。


 私達が席に着くと、既に着席していた三人の令嬢達がにこやかに挨拶する。

 そのうちの栗色の髪の女性が、リューベル伯爵令嬢のロアンナ様のようだ。

 赤い巻き毛の可愛らしい人が子爵令嬢フィオナ様、理知的な真っ直ぐな銀髪の女性が同じく子爵令嬢アリシア様だと紹介してくれる。


 皆様とっても美人でいらっしゃる。

 服装も身に付けた装飾品も派手すぎず見るからに気品のある出立ちで、ザ、いいとこの女子といった様子だ。

 話合うかしらん?

 私はドキドキしながら彼女達に招いてくださったお礼を言った。

 ソフィアお嬢様が私を前ディロン伯爵の令嬢で、フェザード侯爵の婚約者だと紹介する。

 ……嘘ではない、よね。


 紹介がすむなりロアンナ様が身を乗り出してお嬢様に質問する。


「で、ソフィア様、この方が例の・・あの方なのですか?」


『例の』って何?

 三人の令嬢達は目を爛々と輝かせて私を見ている。


「そう、この方があのエレノア・ロイデンですわ」

「ああ、素敵!本物のエレノア様に会えるなんて」

「夢のようですわ。わたくし、『氷の皇子と銀の魔術師』の大ファンですの!」

「エレノア様の本は全作揃えています。ソフィア様、連れて来てくださって感謝いたします!」


 ん……もしやこのお嬢様方はBL仲間?

 ソフィアお嬢様を見ると、お嬢様はうふふと口元を扇で隠した。


「ノアの本を出版しているベルラン商会が、わたくしの個人的な融資で立ち上げたものと知った彼女達に、貴女に会わせて欲しいとずっと頼まれていましたの」

「いつも楽しみにして読ませていただいてますわ。どんな方が書かれているのかと思っていたのですけど、こんな魅力的な方でドキドキしてしまいます」

「厳しいお父様には内緒ですけど、エレノア様の本は我が家の侍女達にも人気ですわ」

「皆様、すごく本が大好きな方達なのよ」


 嬉しい……。

 感動している私を突っついて、ソフィアお嬢様が来てよかったでしょ、と言う。

 コクコク頷く私に、お嬢様は可愛い顔を更に可愛くほころばせた。




 それからの数時間はとても楽しくて、お菓子をつまみながらいろんな話をした。

 大抵は本の事だ。

 貴族のお嬢様達も結構勉強やレッスンで大変で、物語を読む時間がとても良い息抜きになるんだそうだ。

 将来も大体家同士で決められた政略結婚なもので、恋物語には特に憧れている。

 やっぱり女子は恋愛ものが好きだよね。

 リアル世界でも誰と誰が恋仲だ、とか、誰が誰にアタック中だとか、今話題の噂をたくさん教えてもらった。

 いつの時代も女の子の恋バナは楽しい。


「そういえば、クロエ王女の噂が流れているらしいのですけど、どなたかご存知?」


 ソフィアお嬢様がそう言うと、フィオナ様が知ってますわ、と小さく手を挙げた。


「王女の呪いの噂でしょう?馬鹿馬鹿しい。恋愛小説を書くエレノア様が、魔女のわけありませんのに」

「クロエ王女はどんな方だったんです?」


 アリシア様が、これは王宮書記官の兄に聞いた事ですが、と前置きして話してくれる。


「古い話で詳しくは記録が残っていないのですが、今の時代には珍しく強い魔力を持った方で、魔術師だったと言われています。王宮を去ったのも、政略結婚を嫌がって魔獣を召喚したせいらしいのです。追放と言っても、当時のフェザード侯爵が身柄を預かって侯爵領でお暮らしになられたと記録されています。でも、王家の不祥事ですので一般には伏せられていて知るはずがないのに、どうして噂がたったんだろうって兄も言ってましたわ」

「その記録は誰なら見られるの?」

「禁書庫に出入りできる上級書記官以外は、王族の方々のみですわ」


 王族……。

 リース公爵の名前が脳裏を掠めた。

 王族であるならば、ご先祖である王女の秘密も知り得る。

 もしくは王妃様?

 お父上であるクレマン宰相は王弟派だし、叔父様を庇うような素振りもあった。

 誰が噂を広めたのかは絞られてくる。


 いよいよ中心が見えてきた。

 そして、私もそろそろ覚悟を決めないといけない。


 テーブルの下でぎゅっと手のひらを握りしめる。

 パチリと小さな光が手の中で白くはぜた。

 転生チートと思っていた、この役に立たない力。

 クロエ王女が魔術師だったと聞いて気が付いた。

 これが『ルゲルタの聖女』の証だ。


 レオン様は契約は済んでいると言っていた。

 フェザード領に行く必要もないとも。

 もう私は魔獣を召喚出来るのだ。

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