第24話 いよいよ勝負です
「おかしい」
王宮から帰宅したレオン様を出迎えて、今日のお茶会の事を報告しようとした私に、彼は難しい顔をしてそう言った。
「どうしたのです?」
「南の国境のモルガン領で移民を含めた大規模な暴動が起きたんだ。国境騎士団だけでは鎮圧が難しいので、援軍を出して欲しいと要請が来た。背後で隣国が動いているかもしれないとも」
「大変ですけど、何か気になることが?」
「王は明日早朝に騎士団を派遣する事を決めたのだが、私に指揮するようにと命令がくだされた」
「レオン様に!?」
フェザード侯爵家の率いる軍は、国境を守る四つの騎士団のうちの一つだ。
戦争になれば自領以外の地へも出征する。
レオン様自身も獅子王と呼ばれるほど強いと聞いている。
でも……。
「危険ですよね」
戦争ではなく暴動の鎮圧。
それでも援軍が要請されるという事は、かなりの規模なのだろう。
「私は大丈夫だ。すぐに制圧してくる。心配なのは君だ」
そう言って彼は私の髪を撫でた。
「ディロン伯爵の裁判は三日後だ。君も出廷するように言われている。この時期に私を王都から引き離すとは……宰相の采配だろうな。ランファール伯爵とバルフォア子爵がついていてくれるが、くれぐれも気をつけて」
金色の髪が揺れて、私の肩に彼は頭を乗せた。
本当に心配そうにしている。
「レオン様」
私は聞きたいことがあったのを尋ねてみた。
「クロエ王女はフェザード領に行く前に、王宮に魔獣を召喚したそうなんです。もしかして、契約がすでにされているのなら、私にも
彼は顔をあげて驚いたように私を見る。
「誰にも言ってなかったんですが、私も少しだけ魔法が使えるんですよ。自分の身くらい自分で守るので心配しないでください。いざとなれば魔獣を呼んでやっつけてやります」
そう言うと、レオン様は参ったなと言って笑った。
「魔獣をどうやって呼ぶのかがわからないんですけどね」
「名を呼べばいい。名前を呼べば、魔獣は何処にいても君の声が届く」
「名前?」
「『金獅子レオ』……かつて雷の神ルゲルタに仕えていた神獣だ」
「『レオ』? レオン様に似てますね」
「私の名でもいい。私はすぐにノアのもとに駆けつけるよ」
レオン様はそう冗談を言って私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
*********
翌朝、レオン様はモルガン領へと出征していった。
そしてその二日後、残された私は迎えに来たアルバート様と共に王宮へ向かった。
馬車の中で私達は向かい合って座り、裁判の行方について話していた。
「叔父様は結局何か話したのですか?」
「いや、黙秘している。話せば命がない。彼の身分上拷問するわけにもいかないし、口を割らせるのは難しい」
「では、追放でお終いでしょうか」
「馬車の件は調べが進んでいると聞いている。証拠をどれだけ出せるかなのだけど」
アルバート様は銀の前髪をくしゃりとかきあげた。
「殿下は今も度々お命を狙われていらっしゃる。だけどなかなか相手のしっぽは掴めていないんだ」
父様は王太子暗殺犯を追っていたという。
証拠を掴んだと旦那様に連絡した途端に殺された。
前のフェザード侯爵も父様と同じ犯人を追っていたのだろう。
「ここで終わらせられればいいのだけれど」
「やはり黒幕はクレマン宰相様でしょうか」
レオン様をモルガン領へ送ったのは彼だ。
「ノアは公爵自身は担ぎ上げられているだけだと思うか?」
「私は公爵閣下とお会いしたことがないのでなんとも言えないのですが、肉親同士で争っているとは思いたくないですね」
アルバート様とソフィアお嬢様はなんだかんだ言ってもとても仲がいい。
小さい頃からそれを隣で見てきた私としては、兄の子供を弟が殺そうとするところなど想像したくない。
あー、でも、叔父様はマジでそれだわ。
「でも、何故ディロン伯爵はしつこくノアを殺そうとしたんだろう。そこまで爵位に固執しなくても、他に子爵位も持っている。ノアの後見となり伯爵を継ぐという方法もあったのに。ノア……事故の時、何かを見たという事はない?」
「あまり覚えていなくて……。崖から落ちて凄く衝撃が来たのは何となく覚えてます。その後は意識があったのかもわからないです」
「父の話ではノアの上には馬車の残骸が乗っていて、夫妻が庇ったのか血塗れだったけれど奇跡的にかすり傷一つなかったって。ただ、身体を強打していたせいか、かなり回復に時間がかかったと言っていた」
それは奏の記憶がよみがえって半分錯乱していたのもある。
「事故を起こした犯人は、確実に夫妻が死んだか現場で見張っていた可能性がある。もしかしてノアが一緒にいた事に気付いていなかったのかもしれない。その上で姿を見られてはいけない人物がその場にいたとすれば」
「
十年前、あの事故の時、私に何が起こったのか。
これまで忘れようとしていたものの中に、何か重要なものがあるのかもしれない。
「さあ、着いた」
馬車の扉が開いて、アルバート様が降りる私の手をとり支える。
彼の仕草がひどく丁寧で少し戸惑ってしまう。
お坊ちゃまにエスコートされるなんて、なんとなくむずがゆいなと思いながら私は前を向いて歩いた。
どんどん宮殿の奥へ進む。
これまで無縁だった王宮なのに、不思議と怖いとは思わない。
むしろ見たことがあるような気がして、この空気が懐かしく思える。
もしかしたら馬鹿馬鹿しいと思うけど、噂通りに私は本当にクロエ王女の生まれ変わりなのかもしれない。
そうちょっとだけ考えて、私はアルバート様に気付かれないように俯いて笑った。
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