第14話 婚約します

「……確かに、この機にノアの存在を明らかにすれば、十年前の事故に人々の注目が集まります。過去のディロン伯爵の事故、そして最近のフェザード侯爵の事故。そしてその二つの家の婚約。あまりに二つの事故は似通っていますから、周囲もなにかを感じることでしょう」

「彼等は噂の火消しに走らざるをえなくなるだろう。現ディロン伯爵はノアから爵位を奪った事が明らかになり、こちらには刺客を送ったという証言もある。追求すれば落とせるだろう」

「裏にいる者達が黙っていないのでは?」

「もちろん受けて立つ。それに婚約者ならば常にノアのそばにいても不思議ではない。私が守るのにも都合がいい」


 アルバート様が渋い顔をする。


「ですが、ノアの気持ちは?陛下に紹介してしまうと、後々婚約を解消するというのも不都合が多くなります。ノアも卿も新たな相手を選びにくくなるでしょう」


 アルバート様が私の事を気遣うとは意外だ。


 アルバート様にはまだ婚約者はいない。こんな美形がモテないはずはなかろうと思っていたが、案外身持ちは固いようで、女性と遊んでいるという噂も聞かない。

 どちらかと言えば男性のご友人とばかりいて、女性に誘われると慣れないのかするりと逃げてしまうのだそうだ。

 それがまた可愛いと年上のお姉様方から人気があると、お嬢様から聞いた事はある。


 でもまあ、日頃の私に対する態度を見てると、女性嫌いなのかと思うくらい意地悪だ。よく他の女の子には優しく出来るのかと、お嬢様の話を感心して聞いていたのだが。

 もしかしてアルバート様、私にかこつけてレオン様の心配をしてる?


「私はノアを手放す気はない。もちろん誰にも渡すつもりはない」

「…………」


 アルバート様は表情を曇らせ、何かを堪えるように俯いた。

 こ、これは、もしや?

 アルバート様、レオン様のことがお好きなのでは!?

 旦那様に代わり侯爵家に来てレオン様と話をするのも、レオン様にお会いするため?


 私の心臓が別のドキドキに支配される。

 いやあ、これはまいったな。

 私が恋敵になるとは!

 この立ち位置、おいしいわ。

 俄然きらきらした目で二人を見ちゃう。


 ノンケの侯爵に片想いする、少女のように可憐な子爵。

 うん、これは良いネタだわ。

 後でメモっとこ。


「君はいいかい?……ノア、何か別の事考えているだろう」


 私に確認したレオン様は、私の怪しい頭の中を見透かすような顔をしてそう言った。


「え?なんのことでしょう」


 私は慌ててニマニマしていた頬を押さえて隠す。

 やだわー、なんかレオン様ってば私の考えてる事が読めるのかしら。


「ノア、君はフェザード卿と婚約してもいいのかい?」


 アルバート様が真剣な眼差しで私に問う。ああ、やっぱり嫌なんだわ。


 お坊ちゃま、レオン様は私が聖女だからああ言ってるだけですよ。本当に私が好きなわけじゃないんです。

 教えてあげたいけど、聖女って存在自体内緒なんだよね。


「私を襲った犯人から守ってくださるのに、私が拒否するわけにはいきません」


 とにかく命を狙ってくる奴を捕まえない事には、私に平穏な生活はないわけでしょ。この際、アルバート様には悪いけど婚約でもなんでもするわ。

 それに、私の両親を事故に見せかけて殺した奴を捕まえてやりたい。レオン様のご両親である、前フェザード侯爵夫妻も同じように殺されたというのだ。

 アニエスさん達の話を聞く限り、大旦那様ご夫妻はとても良い方だったらしい。そんな方々を暗殺するなんて到底許せるものではない。


「真実を明らかに出来るのであれば、私はレオン様に従います」


 私の言葉にレオン様は優しく微笑んだ。


「ノア、君の事は私が必ず守るから安心しろ」


 う、本気で惚れそうなセリフを言わないで。

 ああ、本当、男前って困るな。

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