第16話 陛下に謁見します
私にとって二回目の宮殿の宴は、前回とは違って夜会だ。
王宮の晩餐会がどんなものか前もって教えてもらってはいたけれど、レオン様の腕に手を置きエスコートされて会場に入った私は思わず立ちすくんだ。
正面の壇上に国王陛下と王妃様、王太子殿下と王太子妃様、他王女様方のお席がある。
が、そこまでの間が長い!
そして、壇上に向かって縦にずらりと並んだテーブルと椅子の数は半端なく多い。招待客の大半がもうすでに着席して会話を交わしていた。
王族席のすぐ近くに座っているのは、きっとレザン侯爵だろう。グレーの髪の眼光鋭いイケオジだ。
その周囲にも偉そうな雰囲気のおじ様方が、何やら真面目な話をしているようだった。
こ、これは私の付け焼き刃の令嬢スキルでは危険なのでは??
黒服の侍従が席に案内してくれるが、席に着くまでの間私は生きた心地がしなかった。
なんせ私の隣を歩くのは若くて超美形の侯爵なのだ。目立つ事この上ない。
歩くたびに皆の視線が刺さってくる。きっと私が誰かを噂しているのだろう。この中に私を襲った刺客の雇い主がいると思うと、さらに息が詰まる気がした。
(君は黙っていても大丈夫だから)
席に座った私の耳元でレオン様が囁く。コクコク頷く私に軽く微笑んで、彼は私の隣に腰を下ろした。
周囲の席の貴族達がちらちらとこちらを見てくる。私はといえば、いつ誰に話しかけられるかとガクブルだ。
すると、私の目の前に救いの主が現れた。
「お嬢様っ!」
ソフィアお嬢様は、しっと言うように人差し指を唇に当てて私にウインクする。空いていた正面の席にランファール伯爵と伯爵夫人、バルフォア子爵、そして私の隣にソフィアお嬢様が座った。
「はじめまして、ね、エレノア様と呼んでもよいでしょうか?」
「お嬢……、ソフィア様、もちろんです」
この会話の後、広間が一斉にざわめき皆が立ち上がる。国王陛下と王族の皆様が登場されたのだ。
陛下と王太子殿下の挨拶の後、いよいよ晩餐会が始まった。
助かりましたよ、お嬢様。
お嬢様は旦那様とアルバート様から事情を全部聞いたようだった。私が何者なのか興味を持っていそうな人に、私にあえて質問できないように別の話を振っている。
レオン様もアルバート様や旦那様方とにこやかに話をされていた。
食事が進み、ある程度たったところでパラパラと皆が席を立ちはじめた。楽団の演奏が始まり、ホールの奥で踊る人達も見える。
「エレノア、行こう」
レオン様が私を促す。私は大きく息を吸って立ち上がった。
「頑張って、エレノア様」
お嬢様が小声で囁く。その応援に小さく頷いて、私はレオン様の腕をとった。
レオン様が前方の席に向かってずんずんと進む。途中で呼び止められないようにだろう、少し早足で私もついていく。
目的の人物の前まで来て、私達は膝を折って挨拶をした。
「陛下、本日もご機嫌麗しく、ご尊顔を拝することができ嬉しく存じます」
国王陛下はレオン様の口上に軽く頷き、隣で王太子殿下と話していたレザン侯爵をチラリと見る。
「フェザード侯爵か。レザン侯爵、こちらが新しくフェザード領主となったレオン・フェザード侯爵だ」
「先のフェザード侯爵は残念な事だった。彼の後継は東の国境騎士団を束ねる獅子王の名にふさわしい豪傑と聞いておりましたが、なんとも麗しい青年ですな。そして、その隣の御令嬢はどなたかな?」
私はごくりと喉を鳴らす。
「こちらの令嬢は私の婚約者です」
「エレノア・ディロンと申します」
レザン侯爵がハッとして陛下の顔を見る。陛下はゆっくりとキルデベルト殿下の顔を振り返り、にこりと笑って頷いた。
王妃様と話していた宰相が驚いたようにこちらを見る。
「陛下、失礼ですが、今、ディロンと聞こえましたが……」
レオン様が作り物の笑顔で彼に答えた。
「そうです。彼女は十年前に亡くなったディロン伯爵の令嬢です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます