第38話 〝奇跡〟


 街人たちが僕を取り囲んで大喜びする中、


「しっかし驚いたよ。お前さんも〝奇跡〟を使えるのかい!?」


 街人の一人が、不意にそんなことを言う。


「え……〝奇跡〟って?」



「――おや、これはどういうことでしょう?」



 丁度その時だった。


 僕たちの下に、一人の男性が現れる。


「〝奇跡〟の助けが必要と聞かされて、遥々ここまで出て来たというのに」


 ――僕たちの前に現れたのは、かなり長い黒髪を三つ編みにした長身の男性。


 年齢はおそらく三十歳前後。


 顔立ちは端正だが黒丸眼鏡サングラスで目を隠しており、どことなく怪しい風貌をしている。


「お、おお……! グレガー様!」


「〝奇跡の担い手〟様だ!」


 僕たちを囲っていた街の人々は、彼を見るなり再び歓喜に沸く。


 どうやら有名人のようだけど――


「お聞きくださいグレガー様! この少年が火事を鎮めてくれたんですよ! この子も〝奇跡〟を使えるんです!」


「…………ほう?」


 黒丸眼鏡サングラス越しに僕を見下ろしてくるグレガーという男。


 なんだか品定めされているように感じた僕は、


「違うよ、僕は〝奇跡〟じゃなくて〝呪言〟を使えるんだ」


「! 〝呪言〟ですと……?」


「本当ですよ。私たちは『ウィレムフット魔術学校』から派遣されてきた者です」


 クーデルカが一歩前に出て話し始める。


 ……たぶん彼女も気付いてるんだろうな。


 おそらくこの男が――


「……もしや、あなたがケイモスヒル領に現れ【呪霊】を退治したという【呪言使い】でしょうか?」


「……ええ、如何にも」


 グレガーはスッとお辞儀をし、


「お初にお目にかかります、魔術学校からの使者様方。私の名前はグレガー・アバグネイル。〝百年ぶりに現れた二人目の【呪言使い】〟でございます」


 不気味なほど丁寧に自己紹介する。


 やっぱり。


 この人が僕たちの調査対象ってワケだ。


「むぅ~……なんとも胡散臭い雰囲気ですねぇ。あなた本当に【呪言使い】なんですかぁ?」


「ハッハッハ、どうか人を見かけで判断しないで頂きたい。それを言うなら、あなたは幼子おさなごにしか見えませんよ、ご長命なエルフ様?」


「ふぐっ……!」


 遠回しにチビ助と言われて心にダメージを負うクーデルカ。


 まあ仕方ないよね……。


 実際、クーちゃんって中学一年生とかにしか見えないんだもん……。


 僕も最初に会った時は似たような印象を持っちゃったし……。


 ま、それはそれとして――このグレガーという男。


 胡散臭いなんてモンじゃない。


 一目見てわかった。

 この人、僕とは違う・・・・・



 【呪言使い】じゃ――ない。



 なんでそう思うのかは、自分でも上手く説明できない。


 直感としか言いようがないけど、ハッキリとわかるんだ。

 とにかく〝違う〟って。


 でも――なんだろう?


 グレガーからは〝不思議な魔力〟を感じる。


 まず魔力量は膨大。


 身体中からオーラのように湧き上がり続けているのが見える。


 もしかすると、魔力量はクーデルカやピサロよりも上かもしれない。


 ……しかしその魔力の質感は、どこか湿り気を帯びている。


 肌にまとわりつくような、寒気を覚えるような、どこかじっとりとした――


「う、ぅおっほん! 自己紹介が遅れましたね、私の名前はクーデルカ・リリヤーノ。この子はリッド・スプリングフィールド。……もしかしなくても、名前は知っておいでかもしれませんね」


「ええ、勿論。〝百年ぶりに現れた一人目の【呪言使い】〟……リッド様のお噂はかねがね」


「私たちは魔術学校からあなたの調査を依頼されてここまで来ました。お話しをお伺いしたい」


「かの『ウィレムフット魔術学校』からの使者様となれば、拒否することなど誰ができましょう。どうぞ遠慮なくお調べください」


 相変わらずやけに丁寧な言い回しで喋るグレガー。


 彼は頭を下げたまま、


「……と言いたいところですが、私は今ケイモスヒル領の領主ボリヴィオ・グズバシャ伯爵の食客に招かれている身でして。どうか一度、あのお方に事情のご説明をお願いしたい」


「わかりました。であれば、まずは領主殿のお屋敷へ向かうとしましょう」


「では謹んでご案内をさせて頂きます。それにしても……今日はいい日だ」


 そう言うと彼は僅かに頭を上げ、微笑を浮かべながら僕の方を見てくる。


「偉大なるリッド様の〝呪言〟――ぜひ一度、拝見させて頂きたいと思っていたのですよ」


――――――――――

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