第45話 教えてあげる


 よくも――僕の大事な友達ライバルを酷い目に合わせたな。


 お前だけは許さない。


 僕は喉に魔力を込め、〝刻印〟を発光させる。


 これが戦う合図だと、相手に知らしめるように。


「……!」


「キミ、グレガーさんじゃないよね。聞いたことのない声だった」


 〝呪言〟によって喋れなくなったマントの人物に対し、看破するように言う。


「どうやって〝呪言のような何か〟を発動しているのかわからないけど……今から本当の〝呪言〟がどういうものか、教えてあげる」


 正直、一言【〝気絶しろ〟】とでも命令すれば簡単にカタが付くだろう。


 でもそれじゃ僕の気が収まらない。


 怒ってるからさ――今、とっても。


「――っ」


 明らかに焦った様子のマントの人物。

 

 そして僕はスゥッと息を吸い、〝呪言〟を発動しようとするが――


「――リ、リッドくん……? 大きな音がしたけど、どうかしたの……?」


 カティアがこちらの様子を確認しようと、部屋のドアを開けてしまう。


「カティア!? 出ちゃダメだ!」


「!」


 マントの人物は腰からナイフを抜き取り、好機とばかりにカティアへ駆け寄っていく。


 彼女を人質にでもするつもりなのだろう。


『――【〝閉じろ〟】』


 僕はドアに向かって〝呪言〟を発動。


 瞬間、カティアを部屋の中へ押し込むようにバタン!とドアが閉まった。


『――【〝開かなくなれ〟】』


 続けてドアの鍵に向かって命令。

 

 ガチャン!と鍵が閉まり、ドアを完全に開かなくさせる。


『ふぇ……!? リ、リッドくん!?』


「ごめん、中で大人しくしてて!」


 部屋の中からダンダン!とドア叩くカティアに対し、叫ぶように言う僕。


 彼女は戦闘に役立つ攻撃魔術はまだ習得していない。


 ここで巻き込んでしまうのは危険だ。


 申し訳ないけど、安全圏から動かないでもらおう。


「――っ」


 結局人質を取ることが叶わなかったマントの人物は、もう破れかぶれになって僕の方へと突撃してくる。


 そしてナイフで突き刺そうとしてくるが――


『――【〝動くな〟】』


 ピタリ、と彼の身体が止まる。


『――【〝浮かべ〟】』


「……っ!」


 フワリ、と宙に浮く身体。

 

 さあ、覚悟はいい?


 さっきのお返しだ。


『――【〝吹っ飛べ〟】』


 ――もの凄い勢いで、廊下の反対側目掛けてぶっ飛んでいくマントの人物。


 でもこんなの序の口だよ。


『――【〝隆起しろ〟】』


 木造の廊下に対して命令。


 マントの人物が吹っ飛ぶ先にある〝木の壁〟が、メキメキと音を立てて隆起。


 大きな拳を形作り、吹っ飛んだマントの人物の背中に鉄拳ならぬ木拳を叩き込んだ。


「――ッ!」


 正面から吹っ飛ばされたと思ったら、今度は背中から殴られて吹っ飛ばされ返すマントの人物。


 まるで壁に跳ね返るスーパーボールのようだ。


『――【〝絡み付け〟】』


 再び木造の廊下に対して命令。


 木の床から、ニュルッとつたが伸びる。


 殴り飛ばされたマントの人物の足に、つたはシュルリと絡み付いた。


『――【〝叩き付けろ〟】』


 つたは足に絡み付いたまま、マントの人物を床に叩き付ける。


 そして床に叩き付けたら、今度は天井に叩き付ける。


 ビターン!ビターン!という軽快な音と共に、反復運動のように天井と床にぶつかるマントの人物。


 かーなーり痛そうだ。


 ――その後も〝呪言〟を使ってあっちへ放り投げこっちへ吹っ飛ばし、叩いて潰して殴って、他にも他にも……。


 ピサロがやられた分は、しっかりと仕返しをしてあげた。


 とはいえ、殺しちゃわないように加減してはいるけど。


 この人からは色々と話も聞かなきゃいけないし。


「っ…………!」


『――【〝首だけ動かしてもいいよ〟】』


 〝呪言〟による身体の拘束を調整し、首から上だけ自由に動くようにしてあげる。


 空中にフワフワと浮遊するマントの人物に対し、


「どう? 降参する気になった?」


 尋ねる。


 すると彼はコクコクと頷いた。


 どうやらだいぶ懲りてくれたらしい。


 そういうことなら、このくらいにしておいてあげよう。


『――【〝動いていいよ〟】』


 拘束を解除し、ドサッと床に落下するマントの人物。


「……――っ!」


 声にならない声で息苦しそうに呼吸する彼に、僕は近付く。


「それじゃあ色々お話を聞くけど、おかしな真似したら――」


「ッ!」


 近付いた途端ナイフを構え、捨て身の突進を繰り出してくるマントの人物。


 まったくもう、いった傍から……。


 仕方ないな。

 もう少し戦意を削ぐとしよう。


『――【〝止ま――』


 〝呪言〟で動きを止めようとした――正にその矢先。



 ズバァ――――ンッッッ!!!



 という爆破音と共に壁が――より正確に言えば〝ドア〟が、猛烈な爆炎と共に吹っ飛ぶ。


 それも丁度マントの人物の横に位置していた、カティアとクーデルカの部屋のドアが。


 爆炎と爆風は凄まじく、壁ごとドアを木端微塵に破壊。


 その爆発にマントの人物はモロに巻き込まれ、一瞬で僕の視界から消えた。


「むっふっふぅ~……リッドぉ~、どこですかぁ~……? 教え子がピンチと聞いてぇ~、この天才魔術師クーデルカ先生がぁ~、助けに来ましたよぉ~……! ヒック!」


 目をグルグルと回し、フラフラと部屋の中から出てくるクーデルカ。


 ……呂律が回っていないところを見ると、まだ酔いが醒めてないっぽい。


 たぶんカティアに無理矢理起こされて、ほとんど前後不覚のまま魔術を発動したんだろうな……。


 それはそれで凄いというか、なんというか……。


「あぁ~リッドぉ~! ご無事でしたかぁ~! 心配しましたよぉ~! それでぇ~、敵はどこですかぁ~……?」


「うん……たった今、クーちゃんが吹っ飛ばしてくれたよ……」


「んぉ?」


 僕は遠い目をしながら――爆発で吹っ飛ばされ、真っ黒に焦げた状態で気絶するマントの人物を指差すのだった。

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