第46話 話を聞かせてもらおうか
「え~……ウォッホン! 先程は大変お見苦しいモノをお見せしました……」
尖った耳の先端まで顔を真っ赤に染め上げ、恥ずかしそうにクーデルカが言う。
彼女は今、ようやく素面の状態に戻っている。
試しに僕が〝呪言〟で【〝酔いを醒ませ〟】と命令したら、ケロリと普段通りに戻ってくれたよ。
ちなみに、彼女が爆破した壁とドアも【〝元の形に戻れ〟】と命令したら一瞬で元通りに。
どうにか宿に修理代を弁償しなくても済みそう。
クーちゃんは昔〝呪言〟のことを〝魔術でも再現不可能な神秘で現実に干渉する〟なんて説明したことがあったけど、本当に色々できるよね……。
相変わらず便利というか無限の可能性があるというか……。
我ながら、わかっていても時々驚かされるよ。
それにしても、
「クーちゃんってあんなにお酒弱かったんだね。酔っぱらってるクーちゃん、可愛かったなぁ~」
ニヤニヤ、と笑って言う僕。
「むぐぐ……! わ、私にだって弱点くらいありますよ! 引率者の身で泥酔したのは不覚ですが……」
「まあ無理矢理飲まされてたもんね、仕方ないよ。……それより――」
チラッと、僕は視線の先を映す。
そして椅子に縛り付けられたマントの人物を見た。
彼はクーデルカの魔術で吹っ飛ばされ、未だに気絶したまま。
ちなみにピサロもまだ意識が戻らないので、ベッドで寝かせて休ませてある。
〝呪言〟で傷は治したから、そう遠からず目を覚ますだろう。
「この人に、色々と話を聞かなきゃいけないね」
「ええ。まずはお顔を拝見といきましょうか」
クーデルカが頭を覆い隠すフードに手をかけ、バッと脱がせる。
そしてマントの人物を顔が露わになった。
「……あれ、この人――!」
すぐに気付いた。
見覚えのある顔つき。
それも見かけたのはつい数時間前、ボリヴィオ伯爵の屋敷の中。
間違いない。
ボリヴィオ伯爵の執事をやっていた男性だ。
「……ボリヴィオ伯爵のお屋敷で見たお顔ですねぇ。ま、彼からの刺客ってことで確定でしょうか」
「で、で、でもどうして、リッドくんたちが狙われたんですかぁ……?」
非常に怯えた様子のカティア。
よく見ると彼女の手足は小さく振るえている。
「それは勿論、本物の【呪言使い】が邪魔だからでしょう。この子を消してしまえば権益を独り占めできますし」
「け、消して、って……!」
カティアの顔色が真っ青になる
無理もないよね……。
彼女はこういう荒事には全く慣れていないだろうから。
むしろ落ち着いてる僕やクーちゃんの方がおかしいのかも。
でも〝特級の【呪霊】〟との戦いなんて特大イベントを経てると、これくらいなら大したことないって思えちゃうんだよね……。
「ま、リッドの実力を完全に見誤りましたね。こうして自分から捕まりに来てくれるなら、苦労はありませんよ」
「それじゃあクーちゃん、この人に事情を教えてもらおうよ。〝呪言のような何か〟の正体も含めてさ」
「ええ。ですが――少し待ってください」
「?」
クーデルカはマントの人物――もといボリヴィオ伯爵の執事に近付き、彼の右手を掴む。
そして、人差し指にはめられた
――あれ?
なんかコレ、グレガーが着けていたモノと似てるな……。
「クーちゃん、その指輪は……?」
「……推測はできますが、真相は本人から語ってもらいましょう」
クーデルカはペチペチと執事の顔を叩き、「ほら、起きてください!」と呼び掛ける。
すると、
「む……うぅ……」
唸り声と共に、彼は目を覚ました。
「おはようございます♪ 気分は如何ですか」
「――! ク、クソッ!」
僕たちの顔を見た瞬間、急いで逃げ出そうと暴れる執事。
だが〝呪言〟で命令したロープでがんじがらめに椅子に固定しているので、逃げられるワケもない。
「色々とお話を聞かせて頂きますよ? なに、手荒な真似はしませんから」
「うるさい、『魔術協会』の犬め! 貴様のような、ガキみたいに貧相な身体のちんちくりんに話すことなどない!」
ブチッ
――という音が、クーデルカから聞こえた気がした。
「……訂正しましょう。やはり手荒な真似をしたくなってきました。時には暴力が全てを解決すると言いますもんねぇ?」
「クーちゃん、口車に乗せられちゃダメだって……」
どうどう……と、額に幾つもの青筋を浮かべる彼女を落ち着かせる僕。
……でも正直に言えば、僕も怒りたい。
お前は全然ちんちくりんの凄さを分かってない――と。
所謂〝ロリキャラ〟の魅力を小一時間――と言わず一昼夜かけて説きたい。
いいじゃん、ちんちくりんで。
なにがダメなの?
どこにバカにする要素があるの?
むしろアニメやゲームだと、ちんちくりんなロリキャラこそ魅力に溢れてるでしょ?
いや正確にはクーちゃんはロリキャラではないけど、小さい身体で長寿とかそれはそれで個性があって素敵だし?
わかってないよねぇ、本当にわかってない……。
――などと、脳内で独り言を呟く。
間違っても口には出さないけど。
「ゥオッホン! それでは、特別に穏便に済ませてあげましょうか」
大きく咳き込んだクーデルカは杖を構え、
「魔力を闇に、彼の者を幻惑し、精神を支配せよ――〔チャーム〕!」
執事へ向かって魔術を発動。
刹那、彼の瞳は焦点が合わなくなり、瞼はトロンと半開きに。
ものの見事に
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