第47話 クーデター!?


「……よし、〔チャーム〕にかかりましたね。それでは私たちの質問に答えてもらいますよ」


「はい……わかりました……」


 虚ろな目をして答える執事。


 クーちゃんは以前「精神操作系の魔術って難しいんですよ?」なんて授業で言ってたけど、完璧に相手を操れている。


 流石は僕の師匠であり先生だ。


「ではお尋ねします。貴方は誰の命令でリッドたちを襲ったのですか?」


「ボリヴィオ伯爵の……命令で……」


「ボリヴィオ伯爵は何故リッドたちを殺そうとしたのですか?」


「〝本物の【呪言使い】〟は……我らの邪魔になるから、と……」


 ――ま、案の定だよね。


 それ以外に考えられないもの。


 ……それと〝本物の【呪言使い】〟って言い方をしたってことは、やっぱりグレガーは〝偽物の【呪言使い】〟で間違いなさそう。


 ただ気になるのは、


「ねえ、どうして僕が邪魔になるの? ボリヴィオ伯爵は〝偽物の呪言〟で、なにをしようとしていたの?」


「ボリヴィオ伯爵は……『グラスヘイム王国』への叛逆クーデターを……企てている……」


「え――?」


 執事の口から出た言葉に、僕は一瞬我が耳を疑った。


「ボリヴィオ伯爵は……ケイモスヒル領を王国から独立させ……自分が独裁者になろうとしている……。そのために……リッド・スプリングフィールドが邪魔だった……」


「ク、叛逆クーデターって……!」


「はぁ……ま、そんなことだと思いましたけど」


 クーデルカがため息交じりに言う。


「え? クーちゃん予想してたの?」


「身に余る力を持った権力者が考えることなんて、たかが知れてますからねぇ。千年間生きてきて、似たような輩は何人も見てきましたし」


 あーあ、またですか――みたいな呆れと嫌悪感を含んだ遠い目をするクーデルカ。


 そうだ……そういえば、初めて会った時にも彼女は言っていた。



 〝貴方はその力を――なんのために使いますか?〟


 〝辿るべき道を見失えば、力はたちまち災厄と化すのです〟



 ――エルフというのは非常に長命な種族だ。


 それこそ人間の何十倍、何百倍という刻の中を生きる。


 ……その中で目の当たりにしてきたのだろう。


 愚かな権力者たちの蛮行と、その末路を。


「ちょっと待って……それじゃあグレガーがケイモスヒル領の領民を助ける代わりに、大金を押収していたのって……!」


「王国への叛逆クーデターに備えて……軍資金を集めていた……。領民から効率よく金を集めるため……事故や事件は、陰で私たちが起こしていた……」


「――! なんだって!?」


 そ、それじゃつまり、ボリヴィオ伯爵は事件の発生と被害者の救助を自作自演して、領民たちから強引に大金を押収してたっていうのか……?


 それって完全なマッチポンプじゃんか!

 とんだペテンだよ!


 発想が詐欺師のそれっていうか、統治者としての倫理観があまりにも終わってる!


 火事にあってた親子だって、もしグレガーに助けられてたら人生が滅茶苦茶になってたってことじゃないか……!


 いや、きっとこれまで何人も……!


 ボリヴィオ伯爵はそこまでクズだったなんて――!


「許せない……!」


 ――僕は貴族だ。

 貴族の端くれだ。


 そしていずれフォレストエンド領を治める者であり、誇り高き父ゲオルク・スプリングフィールド子爵の息子だ。


 これが真実なら、同じ貴族として到底見過ごすことなんてできない。


 領主にとって、民とは宝だ。

 守るべき財産だ。


 特権階級に生まれて権力を持つからって、それはイコール民を虐げてもいいという意味にはならない。


 正しい心を持った人物が、正しく領地を治める。


 それが領主のあるべき姿なんだ。


 領民を騙して、あまつさえ人生を破滅させるほどの大金を搾取するなんて――。


「……クーちゃん、ボリヴィオ伯爵の屋敷へ行こう。彼を止めなくちゃ」


 ギュッと拳を握り締め、クーデルカに言う。

 すると、


「……むっふっふ」


 何故か、彼女は小さく笑った。


「? な、なにさ、なんで笑うの!? 僕は真面目に怒ってるんだよ!?」


「ええ、わかってます。だから私は嬉しくなったんです」


「嬉しく……?」


「リッド、私が三年前に言ったことを覚えてくれているのでしょう? 私が説いた、力を持つ者の心構えも」


「え? あ、いや、別にそういうワケ……ではあるけど……」


「師匠として、私は誇らしい。百点満点を差し上げます!」


「う……また子供扱いして……!」


「それは当然、あなたは可愛い可愛い子供ですから」


 ナデナデ


 と、また頭を撫でてくれるクーデルカ。


 は、恥ずかしい……!

 なんだか無性に恥ずかしい……!


 これからボリヴィオ伯爵をとっちめるんだ!と意気込んだ矢先だったのに……!


「では、ボリヴィオ伯爵に〝正しい貴族の在り方〟を教育しに――と行きたいところですが、まだ二つ質問が残っています」


 クーデルカはそう言うと、再び執事の方へと振り向く。


「あのグレガー・アバグネイルという男……彼は何者ですか?」


「わからない……突然ケイモスヒル領に現れて……ボリヴィオ伯爵に話を持ち掛けた……」


「ふむ、予想はしてましたが、やはり正体不明ですか。では次に――」


 続けて――彼女は指輪・・を掲げて見せた。


 執事が人差し指にはめていた、怪しい指輪を。


「この指輪・・のことを話してください。知っていることは全て、です」


「はい……その指輪は――」


 執事の男は話し始める。


 それを全て聞いた僕とクーデルカは――執事を気絶させ、ピサロの介抱にカティアを残して、ボリヴィオ伯爵の屋敷へ急ぐのだった。

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