第53話 霊幻道士VSエルフ教師②
《クーデルカ・リリヤーノ
私は傷付いた〔ピクシー〕を「お疲れ様でした、もう戻っても大丈夫ですよ」と労い、召喚を解除。
〔ピクシー〕が消えると同時に、体内で魔力を練り直し――
「魔力を原初の炎に、火炎を御する荒魂の現身となりて、我が呼び声に応えたまえ――出でよ〔イフリート〕ッ!」
――巨大な〝炎の精霊〟を召喚した。
炎の化身であり、炎の大精霊であり、原初の炎である――〔イフリート〕を。
燃え盛る大精霊を目の当たりしたグレガーは、流石に驚きを露わにする。
「……! それはまさか、大精霊〔イフリート〕……!?」
「むっふっふ、流石の〝
「……ええ。やはりエルフの魔術というのは侮れませんねぇ」
「後悔してももう遅いですから。――〔イフリート〕、やっちゃってください」
『ウム』
私が命じると、〔イフリート〕は豪炎をまき散らしながらグレガーたちへと突進していく。
あまりの熱波で屋根が溶解し、空気が煮えて蜃気楼まで見える。
「テレジア、【〝アレを止めろ〟】」
『ウフ、フ……』
【呪霊】もグレガーに命令され、〔イフリート〕へと突撃していく。
そして両者は、激しく衝突し合った。
『憐レナ怨霊ヨ……退ケ……!』
『ウフ、フフ、フ……!』
巨体同士でがっぷりと四つ手に組み、お互いを押し退けようとする〔イフリート〕と【呪霊】。
その光景は迫力満点で、あわや屋敷が崩れてしまうのではないかと思えるほど。
しかし、組み合った両者の優劣はすぐに傾く。
〝呪詛〟の塊である【呪霊】の身体が〔イフリート〕の魔力と灼熱に押され始め、ジューッ!と音を立てて溶かされていく。
如何に膨大な魔力を持つ特級の【呪霊】と言えど、大精霊の圧倒的な魔力には敵わないらしい。
「いい感じですよ〔イフリート〕! そのまま払い除けて!」
これなら【呪霊】を無力化できる――!
私は勝利を確信したが、
「……ふぅむ、これは劣勢だ。仕方ありませんね」
グレガーは右腕を上げ、指輪を掲げる。
「――
名前を呼んだ刹那――指輪から、ドロリと〝呪詛〟が流れ出す。
「――! まさか……!?」
一つの【呪物】の中に、二体の【呪霊】――!?
まさか、【呪霊】を二体同時に操っていたというの――!?
私が気付いた時には〝呪詛〟が完全に流れ出て、巨体を形成。
二体目の紫色の影――それも一体目以上に強大な魔力を持つ【呪霊】へと変貌した。
こっちも疑いの余地なく、特級の階位だ。
『アハ……ハハハ……!』
「エリザベート、【〝炎の大精霊を飲み込め〟】」
命じられるや、二体目の【呪霊】は〔イフリート〕へと襲い掛かる。
『アハ……ハ……!』
『ムゥ……!?』
一体目と四つ手を組んでいた〔イフリート〕は回避が間に合わず、ドポンッと二体目の【呪霊】の体内に取り込まれてしまう。
『ムグ……グオオオ!』
〔イフリート〕は〝呪詛〟によって侵し溶かされ、痛々しい悲鳴を上げながら消失。
私との魔力リンクが途切れる。
「そんな……! 〔イフリート〕が……!」
大精霊は生物とは異なる存在だから、〝死〟という概念はない。
だがそれでも魔力消費やダメージなどで消耗し過ぎると、しばらくの間は現界できなくなってしまう。
そして召喚が解除され、魔力リンクが切れたということは――
「案外と呆気ないですなぁ。大精霊とはこんなものですか」
「そ、んな……! どうして
おかしい、数が合わない。
リッドに差し向けられた刺客の指輪に一体、
ボリヴィオ伯爵の指輪に一体、
そしてグレガーの指輪から出て来て〔イフリート〕と対峙した一体――
それでケイモスヒル領に封じられていた【呪霊】は全部のはず。
なのにどうして……!
「ん? ああ、そういえばケイモスヒル領には三体の【呪霊】しかいなかったんでしたか」
思い出したかのように言うグレガー。
彼はニヤッと笑い、
「確かに私がここへ来てから、指輪に封じた【呪霊】は三体だけ……ですが、私が操っているのがそれで全部――だなんて一言も言ってはいませんよ?」
――!
そうか、ケイモスヒル領に来る前から操っていた【呪霊】が、元々一体いたのか!
油断した……!
「さあ
グレガーはゆっくりと私を指差し、
「――【〝あの女を飲み込んでしまえ〟】」
『ウフフフフ!』
『アハハハハ!』
笑い声を奏でながら襲い掛かってくる二体の【呪霊】。
その恐ろしさは、足がすくみそうになるほどだ。
「――っ!」
すぐに魔術を発動して応戦しようとする。
だが直感でわかった。
ああ、これは
特級の【呪霊】を二体同時に相手にするなんて、至難の業だ。
――ここで、私は死ぬかもしれない。
そう思った時、走馬灯のように
「――リッド……」
ポツリ、と呟く。
すると――――その時だった。
『――【〝隆起しろ〟】』
屋根を突き破るようにズドン!と二本の〝拳〟が飛び出し、【呪霊】たちにジャストミート。
私から引き離すかのように、激しく吹っ飛ばす。
それと前後して――
「……僕の
――――――――――
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