第28話 ライバル誕生?


「クーちゃん先生、なんでここにいるの!?」


「なんでって、それはこのクラスの担任が私だからです」


「えぇ……!?」


「リッド・スプリングフィールドの家庭教師という任を解かれた私が、次にテオドール校長から辞令が〝魔術学校の学級担任〟だったということです」


 驚きのあまり、ポッカリと開いた口が塞がらなくなる僕。


 ……そういえば、フォレストエンド領で見送られる時もえらく含みの濁し方をしてたな。


 母の言葉も何故か遮ってたし……。


 思い起こされるクーデルカの不可思議な行動が、ようやく頭の中で合点がいく。


「……クーちゃん、全部知った上で僕に黙ってたね?」


「ん~っふっふ、どうでしょうね? でも驚いたでしょう?」


「そりゃ驚くよ! もしかしたらもう会えないかもと――!」


 言いかけて、僕はバッと口を塞ぐ。


 恥ずかしいから絶対言わないようにと思ってたのに。


「……私に会えなくなるのがそんなに寂しかったんですね、リッド。大丈夫、私はここにいますよ」


 ナデナデ


 にっこりと笑って頭を撫でてくるクーデルカ。


「担任なんて最初は面倒だと思いましたが、貴方の先生を続けられるなら悪くない。八十点です」


「あ、相変わらず子ども扱いして……!」


「それは、あなたは子供ですから」


 まあ中身はいい歳の元社会人なんだけどね。


 なんて思っても言わないが。


「さて、再会の挨拶はこのくらいにしておきましょう。クラスメイトにあなたを紹介しなくては」


「クラスメイト……?」


「ええ」


 クーデルカは短く答えると教室内へと視線を向け、僕もそれを目で追い駆ける。


 すると――教室の席には、既に二人の生徒が座っていた。


 当たり前だがどちらも僕と同じくらいの年齢で、一人が男子、もう一人が女子だ。


「お二人にご紹介しましょう。この子はリッド・スプリングフィールド、私の元教え子です。仲良くしてあげてください」


「ど、どうも、リッドっていいます」


「は、初めまして、私はカティア・イコーナって言います、よろしくお願いします……!」


 先に挨拶してくれたのは女子の方。


 特徴的な薄い桃色の髪をしており、それをサイドテールにしていてとても可愛らしい。


 雰囲気はどこかオドオドしていて、気弱そうな感じ。

 守ってあげたくなる小動物感というか。


 あ~、この子は絶対身内から可愛がられるだろうな~、って思うタイプだ。


「よろしく、カティア。えっと、キミの方は――」


 片や、もう一人の男子の方。


「……」


 無表情でこちらを見つめたまま、一言も発しようとしない。


 目元まで伸ばした黒髪マッシュヘアと、歳不相応な眼力を宿した黒い瞳。


 なんだか妙な威圧感があるというか……。

 この子、本当に六歳か……?


 いや、それを言うなら僕も六歳には見えないかもしれないけど……。


 そんな風に思っていると――ふと、気が付く。


 ――あれ?

 なんだろう、この子どこかで会ったような気が――?


 何故か脳裏をよぎる既視感。

 すると、


「……俺の名前はピサロ。ピサロ・バルベルデ」


「――! ピサロって……!」


「そうだ。俺はあの時・・・に会ったバルベルデ公爵の息子だ」


 ――忘れるはずもない。


 三年前、魔力測定の時にバルベルデ公爵が連れていたあの子供だ。


 【賢者の杖】によって〝第一級〟の魔力階位と判定されながらも、僕が〝特級〟となったがためにバルベルデ公爵が激怒。


 結局テオドール校長にたしなめられたバルベルデ公爵に置き去りにされて、あれからどうなったのかと思ってはいたけど――


 なるほど、立派に成長したものだ。


 でも三歳の頃の出来事をハッキリ記憶してるってヤバいな。


 しかも僕の顔まで憶えてるんでしょ?


 気まず……!


「ひ、久しぶり……?」


「……」


 無言のままじっとりと見つめてくるピサロ。


 だが彼は席を立ち、僕の前まで歩いてくると――


「リッド・スプリングフィールド。俺はお前を認めない」


「え……?」


「お前なんか俺の足元にも及ばない。〝特級〟の魔力階位なんてデタラメだと……俺が証明してやる」


 それだけ言うと、ピサロはクルッと背中を向けて席へと戻っていく。


 ……マジか。

 これって、一種の宣戦布告ってことだよね?


 なんか、凄い恨まれてます……!?


 入学初日からめちゃくちゃ不穏極まりないんですが……!?


 愕然とする僕。


 だがそれとは裏腹に、クーデルカはニヤニヤといつも通り笑っていた。


「おやおや……さっそくライバル誕生ですねぇ、リッド」

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