第29話 クーちゃん……背が……
「では改めまして、ちょっと挨拶がてら説明をさせて頂きましょうか」
コホン、とクーデルカは小さく席をし、最初のホームルームを始める。
僕も席について頬杖を突き、彼女の話を聞く。
どれどれ、クーちゃん先生はちゃんと教師らしく振る舞えるのかな?――なんて思いつつ。
「初めまして、私の名前はクーデルカ・リリヤーノ。見ての通りエルフで、今後あなたたち三人の担任教師となります。よろしくお願いしますね」
「いいよクーちゃん、先生っぽい」
パチパチと拍手を送る僕。
対して「そこ、うるさいですよ!」と怒り顔で注意してくるクーデルカ。
彼女はすぐに話を続け、
「貴方たちには、この『ウィレムフット魔術学校』で六年間かけて〝魔術のなんたるか〟を学んで頂きます。この魔術学校を卒業する頃には立派な魔術師に、あるいは魔法使いになっていることをお約束します」
「クーちゃん、僕は魔術を使えないんだけど……それでも魔術を学ぶの?」
っていうか微妙に今更感あるような?
僕は今までの三年間、彼女も下で勉強してきたワケだし。
もっとも、主に学んできたのは魔術というより〝呪言〟の使い方についてだけど。
「勿論しっかり学んでもらいますよ。よしんば魔術を使えないとしても、知識の有無、知知っているのと知らないのとでは天と地の差がありますから」
「それは、そうかもだけど」
「魔術の知識は決して無駄になりません。立派な子爵となってお役目を全うしたいなら、避けて通るべきではないですね」
「う……なんだかズルい言い方……」
「せ、先生、私からも質問いいですか?」
今度はカティアが手を上げる。
彼女は少しビクビクとした様子で、
「あ、あの、魔術学校ではモンスターと戦わされるって聞いたんですが……」
「ああ、討伐実習のことでしょうか? 確かにありますね」
「! や、やっぱり……!」
「……? 討伐実習ってなに?」
「文字通り、校外へ実際にモンスター退治に行くことですよ。貴方たちにはいずれモンスターを狩ってもらいます」
首を傾げる僕に対してクーデルカは説明してくれる。
そして背後の黒板に、チョークで文字を書き始め――
「……ふぬ! フン! この……!」
――られない。
黒板左上の高さに対して、背丈が全く足りていないのだ。
ピョンピョンと飛び跳ねて必死に腕を伸ばす姿は、まるで僕たち同じ子供のよう。
あんまりにも可愛らし過ぎる。
六歳になって幾らか背丈が伸びた僕に対して、クーデルカは三年前から全然背が伸びていないから……。
「クーちゃん……背が……」
「う、うるさいですよ! こんなの椅子の上に立てばいいだけです!」
どこからか椅子を持ってきて、その上に立ってようやく黒板の上面に手が届く。
彼女はさっそくとばかりにカッカッとチョークで白文字を書き、「コホン」と咳き込むと説明を開始。
「では改めて――魔力保持者は魔力を持っているというだけで国から優遇され、特別な地位に就けますが、見返りとして社会奉仕が要求されます。貴族として土地を治めるのがいい例ですが、これには当然モンスターなどから領民を守る義務も出てきます」
「つまり、いずれ自分の領地でモンスターを狩るための実践訓練ってこと?」
「そういうことです。どんなに強力な魔術を使えても、モンスターを前にして怖気づいてしまっては意味がありませんから」
なるほど、確かにそれはそう。
貴族が治める土地には、一般人では太刀打ちできない第一級や特級のモンスターが現れることがある。
フォレストエンド領に【呪霊】が封印され、それが解き放たれたように。
それに対抗できるのは、魔力保持者だけ。
だからモンスター狩りに慣れてないといけない――っていうのは理に適ってる。
適ってるけどさ……。
「……まだ六歳の子供にやらせる? そういう危ないこと……」
「なにを言ってるんです、貴方はもうそれ以上の危険へ自分から首を突っ込んだじゃありませんか」
「そ、それはそうだけどさぁ……」
「これも立派な貴族になるための道ですよ。それに討伐実習には私も同行しますし、心配することは――」
「……先生」
クーデルカの言葉を遮るように、今度はピサロが挙手。
彼は発言の許可を得ないまま、
「討伐実習は、各地で処理しきれなくなったモンスターの討伐依頼が魔術学校に提出されているんですよね? そして、その中から担任が選ぶ」
「え? ええ、そうですが……」
「今、第一級の討伐依頼はありますか?」
無表情なまま冷たい口調で言うと、ピサロは僕の方を流し見る。
「〝呪言〟とやらがどれほどのモノか……見てみたいんですけど」
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