第18話 呪い
「――ありがとうございました、本当になんとお礼を言ったらいいか……」
アントンは僕とクーデルカに深々と頭を下げ、お礼を言う。
「まさかリッド坊ちゃまにあんな力があったとは。貴方様はやはりフォレストエンドの希望です」
「い、いやぁ、それほどでも……」
「それにしても、一体なにがあったんですか? フォレストエンド領で〝呪詛〟を受けるなんて……」
どうも腑に落ちない様子のクーデルカ。
それは僕もかなり気になるな。
「〝呪詛〟は死霊系モンスターが使う毒術の一種です。でもこの辺りにゴーストやアンデッドは出没しないはず……」
「わ、わかりません。妻たちは黒い影のようなモノを見たら、すぐに具合が悪くなったと言って……」
……黒い影?
うーん、ざっくりとした情報だな。
よもや熊や猪じゃあるまいし、それだけだと流石に特定できないぞ……。
クーデルカも悩ましそうにしつつ、
「もしなにか思い出したことがあったら、私かゲオルク殿にご報告ください。どうも放っておけませんから」
そう言い残し、僕と共にアントンの下を去る。
そして帰り道の最中、
「……ねえクーちゃん先生、〝呪詛〟って〝呪言〟と響きが似てるけど、なにか関係あるの?」
ふと彼女に尋ねた。
さっきからずっと気になってたんだよな。
もし〝呪言〟が関係してたら気まずいし。
「え? ああ、直接の関係はありませんよ。どちらも古の言葉を元にしているだけです」
「古の言葉?」
「魔法・魔術・呪言・呪詛――。今より何千年も昔、古来の人々はこれらをひとまとめにして〝
「〝
「でも魔力の研究が進んで差別化が図られるようになると、〝
「へぇ……知らなかった」
「〝呪〟という単語には特別な意味があるんです。覚えておくといいですね」
なるほど、そんな歴史があったのか。
でも無関係ってことがわかってよかった。
それに豆知識としては面白いし、頭の片隅にでも入れておくか。
「それより……さっき私の許可なく〝呪言〟を使いましたね?」
――ギクリ。
その一言に、僕の表情が引き攣る。
「きょ、今日の夜ご飯はなんだろ~♪ 父様が鹿を狩ってきてくれないかな~♪」
「誤魔化し方が下手過ぎますよ」
「うぅ……」
「安心してください、別に怒ってるワケじゃありません」
「え?」
「貴方は正しいことをした。カッコよかったですよ、リッド」
クーデルカはそう言って、僕に対し朗らかに微笑んで見せた。
その笑顔はとても――とても可愛らしかった。
「そ、そうかな……えへへ」
妙に照れ臭くなってしまい、クーデルカから顔を逸らす僕。
なんだろう……こういう褒められ方って、あんまり慣れてないかも?
「あ~、顔が赤くなってますよ~?」
「し、知らない!」
からかってくる彼女に対し、改めてプイっと顔を背ける。
すると――その時だった。
「――おーい! リッド! クーデルカ殿!」
遠くから父の声がした。
振り向くと、そこには馬を駆けてこっちに向かってくる父ゲオルクの姿が。
「父様! 狩りに行ってたんじゃ?」
彼は僕たちのすぐ傍で馬を止め、
「ああ、大変なことになってな……。ロザベラから薬屋に向かったと聞いて、慌てて迎えに来たんだ」
なにやら焦った様子の父。
そんな彼を見て、クーデルカの表情が曇った。
「ゲオルク殿……なにが起こったのかお聞かせ頂いても?」
「うむ、だが詳細は後だ。今は結論だけ話す」
父はなんとも歯痒そうな顔をする。
それを見て、僕はとてつもなく嫌な予感がした。
彼は深刻そうに口を開き、
「……このフォレストエンド領に封印されていた【呪霊】が、何者かに解き放たれた」
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