第11話 クーデルカ先生


「はぐはぐ……もぐもぐ……ずずぅ~……プハァ!」


 出された料理の品々を、ダ○ソン掃除機の如き吸引力で口の中に放り込んでいくクーデルカ。


 マジでお腹減ってたんだな……。


 あまりに見事な食いっぷりに、感心すらしてしまうよ。


「ご馳走様です! いや~生き返りました。奥方様の料理はシンプルながら絶品ですねぇ~、百点です!」


「そ、それはどうも……」


 満足そうにお腹を擦るクーデルカ。


 彼女は目尻に浮かんだ涙を拭き、


「本当、テオドール校長に「フォレストエンド領に行って家庭教師やれ」なんて突然言われて放逐された時は、もうどうしようかと思いましたよ」


「は、はぁ……」


「あのクソじじい、私が魔術の実験で十年くらい魔術学校に引き籠ってタダ飯食べてたからって、一文無しで追い出したんですよ? 酷くありません!?」


「う、う~ん……?」


「お陰で道中買い食いもできず、何日間もひたすら真っ直ぐ飛ぶしかなくて……飢え死にするかと思いましたよ!」


 ……それは半ば自業自得では?


 つまりアレでしょ?

 十年くらいニート生活してたら「いい加減に働け!」って家を追い出されたってことでしょ?


 なんだろう……大丈夫かなこの人……。


 彼女に家庭教師をやってもらうのが、だいぶ不安になってきたんだが……?


「ところで、私は今日からこの家にお泊りしても?」


「あ、ああ。それは構わない」


 父はそう答えつつ自らの顎を撫で、


「しかし驚いたな……。テオドール閣下が寄越した家庭教師が……まさか、その……」


「小さな子供なことに驚かれました? それともエルフであることに?」


 言いたいことはわかってます、とばかりにクーデルカは肩をすくめる。


「勘違いなさらないでください。私は確かにエルフですが、子供ではありません」


「え? いやしかし、そうとしか……」


「エルフの寿命は人間よりずっと長い。私はこう見えて千百三十七歳です」


「せっ……!?」


「もっとも、エルフの基準で見れば若輩であることは確かですが」


 唖然とする僕たち家族三人。


 千百三十七歳……!?


 僕どころか父の年齢を五十倍しても足りないぞ!


 もうお婆ちゃんどころじゃないだろ!

 仙人かなにかですか!?


 うむむ……ファンタジー作品でエルフが長命って設定はよく見るけど、いざ目の前に現れると流石にビビるな……。


 だってクーデルカって、どう見ても小学校高学年……。


 頑張っても精々中学一年くらいにしか見えないんだもん。


 恐るべし耳長の一族……。

 もうサバなんて読みたい放題だな……。


 そう考えると、テオドール校長とか何歳なんだろ……?


 まさか一万歳超えてるとか……?


 なんてことを考えていると、


「――貴方がリッド・スプリングフィールドですね?」


 クーデルカがズイッと僕の方へ顔を近付けてくる。


 なんとも興味津々という目をして。


「う、うん……」


「テオドール校長から話は聞きましたよ? なんでも【呪言使い】なんだとか?」


「そ、それは……まだよくわかんない……」


「むっふっふ、興味深いですねぇ。引き籠り生活の代わりに、貴方の力を見られるなら悪くない。百点・・です」


 彼女は小さな指先で、チョンっと僕の鼻を触る。


 その指の感触は、とても柔らかかった。


「明日からさっそく授業を始めますよ。私のことは、気軽にクーデルカ先生とお呼びくださいね」

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