第12話 始めての授業


「さて……それでは記念すべき最初の授業を始めましょうか」


 クーデルカがウチにやって来た翌日――。


 彼女はさっそくとばかりに、僕を庭先へ連れ出していた。


 時刻はだいたい昼前。

 天気も良くて空は澄み渡っている。


「初めに言っておきますが、私は子供相手でも厳しいですよ~? 途中で泣き出したりしないでくださいね」


「はーい、クーちゃん先生」


 僕がそう返事すると、彼女はガクッと肩を落とす。


「ク、クーちゃん先生ぃ……?」


「うん。だって昨日そう呼べって」


「私はクーデルカ先生と呼んでねと言ったんです!」


「でもクーちゃん先生の方が可愛いよ?」


「可愛いかどうかは関係ありません!」


「じゃあクーお姉ちゃん」


「貴方、実は私のこと舐めてますね!? そうなんですね!? うぅ……三歳児に舐められるなんて屈辱……!」


 ギリギリと歯軋りして悔しがるクーデルカ。


 だってなぁ、見た目といい性格といい威厳が皆無なんだもん。


 しかも家を追い出された元ニートだし。


 そもそも小学六年生みたいな女の子を「先生」と呼ぶのにも抵抗あるっていうか……。


 傍から見ても、僕とクーデルカの関係を”教師と生徒”だとぱっと見で見抜ける人は皆無だろう。


 精々〝近所の子供を世話してる年長の女の子〟くらいにしか見えないと思う。


「はぁ、もう呼び方は適当でいいです。それじゃあ基礎の座学から始めていきますね」


「クーちゃん先生、質問!」


「? なんでしょう?」


「〝詠唱〟ってどうやるの?」


 そう聞くと、彼女は少し驚いた顔をする。


「もう〝詠唱〟のことを知ってるんですか? 驚きです」


「家の本を読んだら書いてあった」


「……一体どんな本を読んだんです? 貴方、本当に三歳児ですか……?」


「えへへ」


「別に褒めたワケじゃないんですけど……。まあ知っているなら話が早い」


 クーデルカは「実際にやって見せましょう」と杖を持ち直す。


 そして上空へと突き上げ、


「魔力を炎に、灼熱の渦となりて、我が杖より撃ち放て――〔ブレイズトルネード〕!」


 刹那――杖の先端からボウッ!と炎の渦が発生し、竜巻のように空へと放たれる。


 それは迫力満点だったが、ある程度上空まで飛翔すると勝手に鎮火。


 何事もなかったかのように炎の竜巻は消失してしまった。


「す――凄い!」

 

「今のが〝詠唱〟による魔術の発動です。頭でイメージし、体内で魔力を練って、言葉にして放つ。これが基本ですね」


 クーデルカは「慣れれば短略詠唱もできるようになりますよ」と言い足し、えっへんと得意気な顔をする。


 ――なるほど、これが〝詠唱〟……。


 道理でこれまでの練習で魔術が発動できなかったはずだ。


 具体的なアウトプットのイメージとか、そのために魔力を練ったりとか、そういう過程を意識してなかった気がする。


 ゲームみたいに技名を叫べば出るかも?って思ってたからな。


 なんだか納得してしまった。


「ぼ、僕にもできるかな!?」


「それは――」


 彼女はなにか言いかけるが、なにやら思い付いたのか口元に指を当て、


「……リッド、今見せた魔術を真似して、ちょっとやってみてください」


「うん! よーし……」


 僕は上空へと手を掲げ、


「魔力を炎に、灼熱の渦となりて、我が手より撃ち放て――〔ブレイズトルネード〕!」


 クーデルカと同じように〝詠唱〟し、魔術を発動しようとした。


 頭の中で炎の渦をイメージし、

 体内で魔力を練るよう意識し、

 引き金を落とすように言葉にする。


 これなら――と思った。


 しかし、


「あ……あれ……?」


 ――なにも、起こらない。


 炎の渦など微塵も出ず、ざあっという風の音だけが聞こえてくる。


「な……なんで……? ちゃんと〝詠唱〟したのに……」


 おかしい――どうしてなんだ――?


 愕然とし、困惑する僕。

 すると、


「……やっぱり・・・・


「え?」


「リッド、気付いてますか? 貴方……喉の〝刻印〟が発光してますよ」


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