第13話 英雄にも死神にも


「!」


 そう言われて、自らの喉を手で触る。


 喉元に、なにかがつっかえるような感覚。


 いつもと同じだ。


 クーデルカは何故か嬉しそうに口の端を吊り上げ、


「むふふふ……百年前の記録と同じですよ。【呪言使い】特有の現象ですねぇ」


「ど、どういう……」


「スプリングフィールド家のご先祖様、ルークと同じです。喉の〝刻印〟が〝詠唱〟を受け付けない。要は魔術が使えない体質なんですよ」


「! そんな――っ!」


「でも安心してください。その代わり、貴方は〝魔法〟が使えるんです」


 クーデルカはそう言うと、足元にあった小さな石ころを拾い上げる。


「いいですか? 今からこの石を空に向かって投げます」


「……?」


「そしたら、石が燃える光景をイメージして〝燃えろ〟と命令してください」


 石が……燃える……?


 石って燃えるのか?

 そんな光景見たことないけど?


 っていうか命令・・って……。

 石に命令してどうするんだろう……?


 僕はなんとも腑に落ちなかったが――


「では――いきますよ!」


 クーデルカは迷うことなく、勢いよく石を放り投げた。


 僕は上空の石を、目で追い駆ける。


 想像イメージ――。

 石が――燃える――。

 ――命令。



『――【〝燃えろ〟】』



 僕が呟いた途端――喉元がボウッと輝き、熱を帯びる。

 そして、


 ――ヒュボッ!


「! 石が……!」


 上空の石が、真っ赤な炎に包まれた。


 なんの兆候もなかったのに。

 あまりにも突然に燃えたのだ。


 まるで――僕の発した命令を遂行したかの如く。


 炎に包まれた石は溶けるように小さくなっていき、地面に落ちるよりも早く完全に燃え尽きた。


 時間にして、僅か一~二秒の間の出来事である。


 きっと途方もない熱で炙られたのだろう。


「おおお……! 今のが〝呪言〟! ようやく本物を見ることができました!」


「じゅごん……?」


「リッドが使える魔法のことですよ! やはり私の考えた発動条件は、間違っていなかった!」


 ガッツポーズで喜ぶクーデルカ。


 なんで僕よりキミが喜ぶの……?


「魔法って……魔術とは違うの?」


「全然違います! いいですか?」


 彼女はピッと人差し指を立て、


「魔術とは、知識と法則によって魔力を人工的な奇跡へと変換する技法のこと。対して魔法とは、魔術でも再現不可能な神秘で現実に干渉することを指すんです!」


「??? よくわかんない……」


「オホン、とにかく魔術より魔法の方がずっと凄いってことです」


 そう言って彼女は大きく腕を広げ、


「私は魔術学校に籠って、ずっと魔法の研究をしてきました。勿論〝呪言〟も研究対象の一つなんですよ、ふふん」


「! ただの引き籠りじゃなかったんだ」


「当たり前でしょう!? やっぱり貴方、私のこと舐めてますね!? そうなんですね!?」


 さっきまで喜んでたと思ったら、今度は地団駄を踏んで怒り出すクーデルカ。


 しまった、今のはちょっと失言だったな。


 でも喜怒哀楽がコロコロ変わって面白いんだよなぁ。

 個人的にはこういう人って好きかも。


 ……それにしても、〝呪言〟の研究を――。


 そうか、だからテオドール校長は彼女を寄越したんだな。


 クーデルカ・リリヤーノという女性が、〝呪言〟を含めた魔法の専門家だから。


 無駄に引き籠ってたワケじゃなかったってことだ。


 そう考えると、やっぱり凄いエルフなのかも?


「クーちゃん先生、僕に〝呪言〟の使い方をもっと教えて!」


「勿論ですとも。私の知る限りにはなりますが、全て伝授してあげます。……ただ――」


「……?」


「三つ子の魂百までとも言いますし、聞いておかねばなりません」


 クーデルカはそう言うと、今までは打って変わって真剣な目になる。


「リッド、〝呪言〟は凄まじい力を持ちます。もし使いこなせれば、貴方は英雄にも死神にもなれるでしょう」


「英雄にも、死神にも……?」


「そうです。だからこそ問います。貴方はその力を――なんのために使いますか?」


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