第8話 呪言使い


「――〝特級〟!? 〝特級〟だって!?」


「そんなバカな……!」


「特級魔術師は、もう現れないと言われていたのに……!」


 貴族たちのどよめきは頂点に達した。


 大人たち全員が「信じられない!」という顔で顔を見合わせ、目を丸くしている。


 ……そんなに凄いの?

 〝特級〟とかいう魔力階位って?



「――デタラメだ!!!」



 混沌とした空気感の中、怒号が響いた。


 叫んだのはバルベルデ公爵である。


「あり得ない! なにか不正を施したに決まってる!」


「な……なにを仰るか、バルベルデ公爵!」


 突然の言い掛かりに怒る父。

 だがバルベルデ公爵も引き下がらない。


「でなければなんだ? 我がバルベルデ公爵家の血が、百年も無能を晒したスプリングフィールド家なぞに劣るはずがない!」


 自分の息子が格下になった、という事実がよほど悔しいのだろう。

 顔を真っ赤にして怒鳴り散らし続ける。


 あまりにも傲慢で惨めな虚栄心だ。


 っていうか、自分より偉い人がいる場で証拠もなく不正を給弾しようとするとか、阿呆なのか……?


 いや、阿呆なんだろうな。

 間違いなく。


「そもそも、あのガキが本当に魔力を持っているのかも疑わしい! 事実と言うなら、魔術を使ってみせよ!」


「む、無茶を言うな! 三歳の子供が、簡単に魔術を使えるはずないだろう!」


「はん、やはり噓っぱちか。ああそうだろうとも、貴様のように下賤で取り柄のない無能から、〝特級〟魔術師など生まれるはずがないものなぁ!」


 ――その発言を聞いた瞬間、僕の頭の中でプチッという音が響いた。


 ……今、父をバカにしたか?


 ゲオルク・スプリングフィールドを、取り柄のない無能と言ったか?


 家族と領民のことを第一に考え、

 領主だからと決して驕ることなく、


 優しく、愛情深く、そして強い……自慢の父が、無能だと?


「…………ふざけるな」


 ――無意識に足が動く。


 ――無意識に喉が熱くなる。


 僕は壇上から降りて、バルベルデ公爵のすぐ傍まで近付いた。


「お? なんだガキ、まさか本当に魔術を見せてくれるとでも――」







『――【〝黙れ〟】』







 一言。

 たった一言、僕は彼に向かって呟く。


 次の瞬間、


「……? ――……!? …………――ッ!?!?」


 バルベルデ公爵はなにも喋らなくなる。


 否――喋れなくなる・・・・・・


 彼は両手で喉を抑えて必死に声を出そうとするが、一言も発することができない。


 聞こえてくるのは、かすれるような呼吸音だけだ。


「な……なんだ、なにが起こった……!?」


 様子が急変したバルベルデ公爵の姿に、父も周囲の貴族たちも驚愕する。


「ッ……! ……――っっっ!!!」


 床に膝を突き、冷や汗を流しながら絶望の表情を浮かべるバルベルデ公爵。


 ざまぁない。


 そのままもう二度と――


「いかんぞ、リッドよ」


 ――瞬間、僕はハッとする。

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