第37話 救助活動!


「か、火事だああああぁぁッ! 家屋から火が出たぞおおおおおぉぉぉッ!」


 ――突然、そんな大声が街中に響き渡る。


「え?」


「西の共同住宅アパートから火が出たんだ! 火消しを呼んでくれえええぇぇッ!」


 血相を変えて街中を走る一人の男性。


 僕とクーデルカは急いで馬車の窓から首を出し、上空を見回してみる。


 すると今まで建物の陰に隠れて見えなかったが、離れた場所から黒煙が立ち昇っているのが確認できた。


「! クーちゃん、アレ!」


「わかってます! 馬車を止めてください、早く!」


 クーデルカは馬の手綱を引いていた御者に馬車を止めさせ、杖を持って馬車から降りる。


 僕も彼女に続き、


「行きますよリッド!」


「うん!」


「ピサロとカティアはここで待っててください! すぐ戻りますから!」


 クーデルカは僕を杖に乗せ、勢いよく飛び立つ。


 入り組んだ街の中を移動するのは、やっぱりこれが一番速いからね。


 それに、こうして彼女と一緒に杖に乗るのも慣れてるし。


 三年も師弟関係やってると、そういう機会も多かったワケで。


「クーちゃん、あそこ!」


「わかっています! 掴まっててください!」


 ビュン!と速度を上げてかっ飛び、上空から事態を確認。


 火が出たのは三階建ての家らしく、特に一階部分は炎の勢いが強い。


 既に大勢の野次馬が集まっているが、誰も近付けない様子だ。


「だ、誰か……! せめてこの子の命だけでも……!」


「うえぇーん! 怖いよママー!」


 火だるまとなった家屋の三階に、人が取り残されている。


 たぶんこの家に住む親子だろう。


 火の回りが早く、逃げられなくなったと思われる。


 状況は最悪だが――


「……リッド、やれそう・・・・ですか?」


「うん、問題ない。降ろして」


 クーデルカは杖を操って急降下し、僕を家屋の前に降ろす。


「すみません、ちょっと失礼します」


 僕は野次馬の間をすり抜けながら家屋の前へと歩み出て、〝炎〟へと意識を集中。


 そして――


『――【〝消えろ〟】』


 燃え盛る炎に対して、〝呪言〟を発動した。


 僕に命令されるや否や、ボウボウと燃え盛っていた炎は一瞬で鎮火。


 まるでマッチの火が強風に煽られて失火したかのように、焼け跡と煙だけがその場に残った。


 ――こんな芸当が出来るのも〝呪言〟だけだ。


 通常の魔術じゃ火災で発生した炎を意のままに操るのは難しいし、水属性の魔術で消火するしかないだろう。


 だがそれには時間も魔力もかかるし、非効率的。


 もしかすると火の回る速さに追い付けない可能性もある。


 だが〝呪言〟は違う。


 炎に命令すれば一瞬で解決だ。


 僕もクーデルカもそれがわかっているから、こうして一緒に飛んできたのである。


「え……? ほ、炎が……!?」


「もう降りて来て大丈夫ですよー! 炎は完全に消えましたからー!」


 混乱した様子の親子に、大声で火事が解決したことを伝える僕。


 クーデルカも僕の下に近付いてきて、頭を撫でてくれる。

 

「よくできましたリッド。百点ですよ」


「えへへ、それほどでも――」


「す……すげぇじゃねーか小僧!」


 次の瞬間、野次馬をしていた街の人々がドッと集まってくる。


 誰も彼もが歓喜に沸いており、あっという間に僕たち二人は身動きが取れなくなってしまう。


「あ、あの、ちょっと……!?」


「よくやったぞ、ちっこいの!」

「今のどうやったんだ!?」

「小僧はあの二人の救世主だぜ!」


 まるでお祭り騒ぎである。


 喜んでくれるのは嬉しいけど、ちょっと落ち着いてほしいなぁ……。

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