第36話 ケイモスヒル領へ


「皆さん、お待たせしました。申し訳ありませんが次の授業はお休みです。すぐに遠征の準備をしてください」


 クラスに入ってくるなり、クーデルカは僕たちに向かって言う。


 僕は呆気に取られ、


「え……な、なんで?」


「『魔術協会』から私たちへ、直々に調査依頼が出たのです。……ケイモスヒル領に突如現れ、【呪霊】を退治したという――〝謎の【呪言使い】〟を調べてきてほしい、と」




 ▲ ▲ ▲




 ――オフラハティ教頭曰く、それは本当に突然『魔術協会』にもたらされた情報だったという。


 〝ケイモスヒル領に【呪言使い】が現れ、【呪霊】を退治した〟と。


 改めて言うまでもないが、【呪言使い】――というより魔法使いは、僕が生まれるまで百年間も登場していない。


 ご先祖様であるルーク・スプリングフィールドが死没して以降、もう現れないとすら言われていたほどだ。


 それだけ希少な人材ってことなのだろう。


 ――が、突如としてケイモスヒル領に新たな【呪言使い】が現れた。


 もし事実なら同時代に二人の【呪言使い】が誕生したという、スーパービッグニュースなのだが――


「その〝謎の【呪言使い】〟が本物かどうか、見定めてきてほしい――というのがオフラハティ教頭、及び『魔術協会』からの依頼です」


 馬車に揺られながら、クーデルカは淡々と僕ら生徒三人に説明する。


 それを聞いた僕はなんとも訝しんだ眼差しを彼女に向け、


「理由はわかったけど……それって僕たちに任せて大丈夫なの……?」


 実際、結構大事な仕事だと思うんだけど?


 事実なら凄いことだし。


 その調査を六歳児に頼むかぁ普通?


 幾ら教師同伴とはいえさぁ……。


 相変わらず魔術学校の考え方は吹っ飛んでるというか、なんというか……。


「むっふっふ、なにを仰いますか! むしろ私たち以上の適任はいないでしょう!」


 フフン、と得意気に鼻を鳴らすクーデルカ。


「正真正銘の【呪言使い】であるリッドと、そのリッドに三年かけて〝呪言〟を教えたこの私……『グラスヘイム王国』の中で、私たち以上の専門家はいませんよ!」


「そ、それはそうかもだけど……」


「それに〝呪言〟の脅威を間近で感じたという意味では、ピサロやカティアも十分関係者と言えます。特に直接対峙したピサロの意見は参考になるはず」


「フン……」


 プイッとそっぽを向くピサロ。


 相変わらず素直じゃないんだから。


「で、でも、本当にリッドくん以外の【呪言使い】が現れたんでしょうか……? なんだか信じられません……」


 カティアが不安そうな表情でクーデルカに聞く。


 対して彼女は、


「んー、まあ十中八九〝偽物〟でしょうね」


「ふぇ……!?」


「そんなホイホイ魔法使いが出てきたら、私の長年の研究はなんだったのって話ですよ。大方、リッドの噂を聞いて荒稼ぎを思い付いた愚か者ってオチでしょう」


 そ、そんなハッキリ言っていいの……?


 でも確かに、クーちゃんは僕と会うまではずっと研究室に引き籠って魔法や魔法使いを研究してたって話だし。


 だからこそ僕に〝呪言〟の使い方を教えられたワケで。


 彼女が言うと説得力があるのは事実だ。


「ただ一点……〝【呪霊】を退治した〟という部分だけは引っ掛かります。仮に偽物だとしても、【呪霊】を倒せるとなれば相当実力のある魔術師なはず」


 それは……確かに。


 フォレストエンド領で戦ったあの【呪霊】も、特級とはいえ驚異的な強さだった。


 なんせ僕が魔力量で押し負けて、魔力反射を起こしてしまったくらいなのだから。


 階位はわからないにせよ、そんな【呪霊】を倒した〝謎の【呪言使い】〟……。


 正体が気にならないワケはない。


「なんにせよ、実際に会ってみないことには断定はできません。私たちの目でしっかりと見定めてやろうじゃありませんか。ねえ、リッド?」


「うん……そうだね」


 ――そんな話をしている内に、馬車はケイモスヒル領で領主が治める街『タラム』に到着。


 王都ほどではないけれど、そこそこ大きな街だ。


 人も賑わっている感じ。


 まずは領主に会って事情を説明すべく、街の中を進んでいたのだが……。



「か――火事だああああぁぁ! 火事だぞおおおおおおおおぉぉぉ!」


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