第4章 偽物

第35話 どこがいいんだ?


 ――僕がピサロと〝決闘〟を行ってから、一ヵ月が経過。


 あの一件以降ピサロと僕の間にあったピリピリとした空気感は若干和らぎ、学生らしい毎日を送っている。


「――ですから、魔術というのは如何に頭の中で具体的なイメージを組み立てられるかなのです。これが細密であるほど、体内で練られる魔力も大きくなり――」


 いつもように椅子を脚立代わりにして、黒板にチョークで文字を書きつつ授業を進めるクーデルカ。


 僕、ピサロ、カティアはノートを取りつつ、彼女の授業に耳を傾ける。


 ほーんと、クーちゃんの教師っぷりも板に付いてきたものだ。


 いやまあ、僕にとってはずっと前から先生ではあるけどさ。


 でもこうして皆の先生・・・・として教鞭を振るっている姿を見るのは……なんていうか、こう、ちょっと複雑な気分かも……。


 なんてボーっと思っていると、


「……リッド、いきますよ・・・・・


「ふぇ?」


「とうっ!」


 次の瞬間、クーデルカは僕目掛けてチョークを投擲。


 一直線に飛翔する円錐型の白い物体を見て、反射的に――


『――【〝止まれ〟】』


 〝呪言〟を発動。


 同時にチョークも僕の眼前でピタリと停止する。


「ふむ、悪くない反射速度です。八十点を差し上げましょう」


「ちょっとクーちゃん、危ないじゃん!」


「授業に集中していないリッドがいけないんですよ。それにあなたなら、これくらい反応するのはワケないのは知ってますから」


「……ちぇ」


 不貞腐れ気味にチョークを掴み、クーデルカへと投げ返す僕。


 キーンコーンカーンコーン


 直後、学校中に響き渡るチャイムの音。


「お、もうそんな時間でしたか。それでは本日の座学はここまでに――」


 クーデルカは授業を終わらせ、ピョンッと椅子から降りる。

 すると、


 ――コン、コン


「……失礼する」


 ノックと共に教室へ入って来る男性の姿。


 片眼鏡と伸びた黒髪、そして非常に冷たい印象を受ける強面の中年男性。


 彼はジェムソン・オフラハティ。


 この『ウィレムフット魔術学校』の教頭を務める人物だ。


「おや、どうされましたオフラハティ教頭?」


「クーデルカ・リリヤーノ先生、少々あなたにお話しが。至急教頭室までお越し頂きたい」


「……? はあ……」


 オフラハティ教頭は抑揚のない声で言うと、クーデルカを連れて教室を去ろうとする。


 だがその直前、チラリと僕と目が合った。


「……」


 冷たい眼差しでこちらを見るや、無言のまま教室を後にするオフラハティ教頭。


 ……正直、あの人苦手なんだよなぁ。


 なんとなく転生前に務めてた会社の上司を思い出すから……。


 オフラハティ教頭とクーデルカが教室を去っていくと、僕たち生徒はどっと休み時間ムードになる。


「さ、さっきの凄かったね……! 驚いちゃった……!」


「へ? 〝呪言〟のこと?」


「う、うん! あんなに速く発動できるなんて、やっぱり魔術とは違うんだね……!」


 さっきチョークを〝呪言〟で止めたことをべた褒めしてくれるカティア。

 

 まあ通常の魔術と違って〝詠唱〟の過程がないから、幾分か速く発動できるのは強みではあるかなー。


「フン……あんなもの大したことない」


 褒められた僕を傍目に、不服そうに嫌味を漏らすピサロ。


 相変わらず負けん気が強いなぁ。


「クーデルカ先生が投げる前に一声かけなければ、あのまま当たっていたはずだ。俺ならあんな油断はしない」


「うぐっ……ゆ、油断してたのは事実だけどさ……」


「お前はクーデルカ先生を見ている時、いつも気が緩んでいる。あのちんちくりん・・・・・・のどこがそんなにいいんだ?」


 ピキッ


「……ピサロ、ちょっと校舎裏でお話し・・・しようか?」


「望むところだ。今日こそ決着つけてやる」


「ちょ、ちょっと! 二人共、喧嘩はやめてぇ!」


 あわや一触即発となった僕とピサロを必死になだめるカティア。


 気付けば、こんなやり取りがもうすっかり僕らの日常となった。


 フォレストエンド領を出た頃は不安しかなかったけど、なんだかんだ楽しく日々を送れている気がする。


 ライバルという喧嘩友達もできたことだし、ね。


 ――その後、次の授業の準備をしつつ僕らはクーデルカが戻ってくるのを待つ。


 しかし、彼女は中々戻ってこない。

 次の授業のチャイムが鳴った後も、教室の扉が開けられる気配はない。


「……クーちゃん先生、遅いな」


「ど、どうしたんだろう……? 教頭先生と、なにをお話ししてるのかな……」


 流石に妙だな?と僕らが思い始めた矢先、ようやく教室の扉がガラリと開かれる。


 そしてクーデルカが姿を見せた。


――――――――――

第4章スタート!

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