第34話 ねえピサロ、僕と――
「チ、チ、チクショウ……!」
肩から息を切らし、額から汗を流すピサロ。
すっかり魔力も底をついたようで、遠目からでも手足がガクガクと震えているのがわかる。
対して僕の方は、まだまだ余力があった。
喉に浮かび上がる〝刻印〟から魔力が湧き上がる感覚が途切れていない。
完全に余裕を持って継戦できる自覚がある。
「ま、まだだ、まだまだ……!」
「いいえ、ここまでです」
尚も戦う意思を捨てようとしないピサロに対し、決闘の行く末を見守っていたクーデルカが言う。
彼女はピサロに近付いて彼の肩を持ち、
「それだけ魔力を使い尽くせば、もう歩くことすらままならないでしょう? 勝敗は決しました」
「うるさい……! 俺に触るな……!」
気遣うように触れたクーデルカの手を振り払うピサロ。
彼は僕をギロリと睨み、
「アイツには……アイツにだけは負けられないんだ……!」
震える足を動かして、こちらへ向かってくる。
「お前の……お前のせいで、俺と母さんは親父に見捨てられた……!」
「なん――だって――?」
「お前さえいなければ……母さんはあんなに悲しまずに済んだのに……! お前さえ……――」
凄まじい怨嗟と執念で近付いてくるピサロ。
しかし僕の目の前まで来た瞬間、彼の身体からフッと力が抜ける。
どうやら魔力切れで意識を失ったらしく、僕はそんなピサロを静かに抱き支えた。
「そっか……キミは……」
▲ ▲ ▲
「う……」
「あ、目が覚めた?」
医務室のベッドの上で瞼を開けるピサロに、僕は声をかける。
傍にはクーデルカとカティアの姿も。
「〝決闘〟中に魔力切れで倒れて、一時間くらい眠ってたんだよ。気分はどう?」
「……俺は、負けたのか」
天井を見上げたまま、覇気のない声でピサロは言う。
それに対し、沈黙で返す僕たち三人。
彼はベッドの上で上体を起こし、
「そうか……やはり俺は
「で、出来損ないって……」
「親父が言っていた。〝スプリングフィールド子爵の息子などに劣る者は、バルベルデ公爵家の人間ではない。出来損ないだ〟って」
「な、なんだそれ……!」
――酷い。
っていうかありえない。
それ、親が子供に向かって言うことなのか?
ピサロは十分過ぎるくらいに凄い子だろ!
六歳であれだけの魔術を使いこなして、しかも第一級の魔力を持ってるんだから!
確かに魔力測定の時、僕が特級と判定されたことでピサロの凄さは薄れて見えたかもしれない。
だけどそれだけで子供に冷たく当たって、あまつさえ出来損ない呼ばわりするなんて最悪だ。
親として完全に失格だよ。
バルベルデ公爵、どれだけ傲慢な奴なんだ……!
「俺が出来損ないだったせいで、母さんは親父から冷遇され、他の妾たちからも虐められた……。俺にもっと力があれば……!」
悔しそうにギュッと毛布を掴むピサロ。
……きっと、彼はバルベルデ公爵家でかなり酷い扱いを受けて来たに違いない。
母親と一緒に。
だから〝決闘〟で僕を打ち負かして、父親に振り向いてもらおうと思ったんだな……。
――――よし。
「……ねえピサロ」
「なんだ」
「僕と――
「…………は?」
「あ、いや、友達って言い方だと語弊があるかな? キミには僕の〝ライバル〟になってほしいんだ」
「俺が、ライバルだと……?」
「僕自身、正直まだまだ〝呪言〟を使いこなせているとは思わない。きっと思いもよらない弱点があるだろうし、対処できない魔術も出てくると思う。だからピサロはそれを見つけて、全力で僕を潰しに来てほしいんだ」
……流石にちょっと図々しい言い分だろうか?
いや、でもここで僕の側が引いちゃ駄目だ。
そうすれば、
結局自分は駄目な奴だったと。
言うまでもなく、それは心の傷だ。
だから無理にでも引き込まないと。
「ピサロ、僕はキミを
「お前……」
「もし僕がいつか誰かに負けるなら、その時はピサロがいい。だから、今日からキミは僕のライバルだ」
「……ハ……ハハハ」
僕の言葉を聞いて、呆れるような声でピサロは笑う。
彼はようやく僕と目を合わせ、
「……その言葉、後悔するなよ。俺は必ずお前を倒す。いつか絶対に吠え面かかせてやるから、覚悟しておけ」
「望むところさ。いつでも待ってるよ」
お互いを見て、初めて微笑し合う僕とピサロ。
その様子を見ていたクーデルカも、フフッと笑った。
「むっふっふ……いいですねぇ、二人とも百点満点を差し上げます」
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