第33話 実力差


 拝啓、フォレストエンド領の父様、母様。


 僕は魔術学校に来て、早四日目にして〝決闘〟を挑まれることとなりました。


 どうしてこうなったんでしょうか?


 誰か教えてください本当に。


「……ホントにやるの?」


「やる。やると言ったらやる」


 僕とピサロはだだっ広い校庭の中央で、互いを見据えて立つ。


 ……ハッキリ言って、めちゃくちゃ気が進まない。


 確かに父親のバルベルデ公爵は嫌いだし、フォレストエンド領の【呪霊】を解き放って利用した疑惑もある。


 事実だったなら、いつかギャフンと言わせてやらないと気が済まない。


 だが、それとピサロにはなんの関係もないのだ。


 痛い目を見せたいのは父親の方であって、彼自身に恨みなどあろうはずもない。


 少なくとも、僕には戦う理由なんてないんだけどなぁ……。


 なんて思う僕とピサロの傍には、カティアと審判役を務めるクーデルカの姿が。


「それでは、お二人の決闘はこのクーデルカが見守らせて頂きます。危なくなったら止めに入りますから、ピサロは本気でリッドを倒しにいってください」


「言われるまでもない」


「……クーちゃん先生、僕の方は?」


「絶対に本気を出してはいけません。これは師匠としての厳命です」


 彼女はピッとこちらを指差すと、


「特に、ピサロの肉体に対して直接〝呪言〟を使うのは御法度です。万が一にも死なせてしまっては一大事ですから」


「いや、確かにそれは一大事だけど……。それにしても条件が不公平すぎない……?」


「不公平なものですか。私がリッドの実力をよく知っているからこその特別扱いだと思ってください。それに、これは修行の一環としてとても有意義なものですよ」


「修行……?」


「リッド、あなた以前【呪霊】と戦った際に魔力反射が起きたそうですね。それはつまり、これから先も相手に対して直接〝呪言〟を使えない場面が出てくる可能性があるってことです」


 ――!

 そうか、言われてみれば確かに。


 あの時、僕の〝呪言〟は【呪霊】の魔力の大きさに勝てず魔力反射を起こした。


 結果〝呪言〟による命令は無効化され、喉から出血までする有り様だった。


 機転を利かせて周囲の物に〝呪言〟を使い、一時抗戦したけど――アレと同じ状況がまたやってくるかもしれないのか。


 それなら――


「……わかったよ、クーちゃん。なんとかやってみる」


「その意気です」


 僕の想いを読み取ったのか、ニッと笑うクーデルカ。


 彼女は片腕を掲げ――


「それでは……始め!」


 決闘の幕は切って落とされる。


 直後、


「魔力を雷に、轟く雷鳴となりて――」


「え、ちょ――」


「我が手より撃ち放て――〔サンダー・ボルト!〕」


 さっそくとばかりにピサロは〝詠唱〟。


 僕目掛けて雷撃の魔術をぶっ放してきた。


 いきなりか――!


 いやそりゃ始まったんだから当然だろうけど!


 でも……この魔術は討伐依頼の時にも見た。


 ピサロの出力もわかってるし――


『――【〝消し飛べ〟】』


 雷撃に向かって、僕は〝呪術〟を発動。


 するとバチィッ!と激しい音を立てて、こちらに飛んできていた雷撃は霧散する。


「――チッ!」


「今度はこっちからいくよ」


 僕は視線を地面へと下ろし、


『――【〝隆起しろ〟】』


 命令するや、勢いよく隆起した土が握り拳の形になる。


『――【〝振り下ろせ〟】』


 続けて命令。


 すると握り拳の土はピサロを叩き潰そうと、グワッと大きく振り被られる。


「うッ……!」


 慌てて回避するピサロ。


 次の瞬間、ズガァンッ!と握り拳型の土は彼のいた場所へ振り下ろされた。


 ちぇ、避けられちゃったか。

 ま、いいや。


 さあ次はどう出る、ピサロ。


「魔力を炎に、灼熱の火球となりて、我が杖より撃ち放て――〔ファイヤーボール〕!」


 今度は炎の魔術を〝詠唱〟し、火炎球を撃ち出してくる。


 これは以前クーデルカにも見せてもらった、比較的オーソドックスな炎魔術。


 悪いけど対策もバッチリだ。


『――【〝止まれ〟】』


 そう呟くと同時に、僕の目の前でビタッと空中停止する火炎球。


 この火の球そのまま、お返しするよ。


『――【〝飛んでいけ〟】』


 命令するや、火炎球は主を鞍替えしたようにピサロへ向けてかっ飛んでいく。


「なッ――うわ!」


 ピサロのすぐ傍に着弾し、爆発する火炎球。


 勿論直接当てたりはしない。


 大怪我じゃすまないかもしれないし。


 不本意ではあるけど、〝決闘〟を申し込まれた以上僕がやるべきことは一つ。


 ピサロの戦意を完全に挫くこと。


 それも極力、彼を傷付けずに。


「ピサロ、もうやめようよ……。僕はキミを傷付けたくない」


「く、くそ……!」


 僕の言葉に、ピサロは頑なに耳を貸そうとしない。


 その後も彼は習得している魔術を次々と発動し、果敢に攻撃を繰り出してくる。


 僕は〝呪言〟を使ってそれらを全ていなし、ピサロを傷付けないよう注意を払って反撃。



 そして、もう何度目かもわからなくなった攻撃の後――魔力を消費し尽くしたピサロは、遂に地面へ膝を突いた。


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