第39話 【呪霊】などただの化物ですよ


 ピサロ&カティアと再び合流した僕とクーデルカは、グレガーに誘われるまま領主の屋敷に向かった。


 そしてすぐに、領主に謁見できることとなる。


「おおー! 魔術学校の使者の方々、よくぞ我が領地へいらしてくれました! 歓迎致しますぞ!」


 満面の笑みで僕たちを迎えてくれたのは、ケイモスヒル領の領主ボリヴィオ・グズバシャ伯爵。


 恰幅のいい肥満体型で、ツルピカの禿頭が如何にも貴族という風貌の男性だ。


 屋敷の中には執事や使用人、さらには用心棒らしき者たちまでおり、建物の内装も豪華絢爛。


 かなり裕福な暮らしをしていることが伺える。


 フォレストエンド領で貧乏暮らしをしていたスプリングフィールド家とは大違いだ。


 ……まあ、本来なら貴族ってこういうイメージなんだけどね。

 

 ウチが特殊だっただけで。


 もっとも……僕はあまりこういう暮らしをしたいとは思わないけど。


 ボリヴィオ伯爵はニコニコとした笑顔を見せたまま、


「実は『魔術協会』から便りが届いたばかりでしてな。調査団に協力してほしいと記されてありましたが、まさかこれほどお若い方々だったとは!」


「私は別に若くないんですけどぉ~……」


 相変わらず幼少に見られて不服そうな顔をするクーデルカ。


 そんな彼女が可愛い過ぎて、僕はなんとか笑い出すのを堪える。


「それより、手紙が届いたということは――」


「勿論、グレガー殿のことは自由に調査して頂いて結構! 彼の〝奇跡〟の目の当たりにすれば、疑念などすぐに消え失せるでしょう!」


 なんか、やけにグレガーのことを信用してるみたいだな……?


 いやまあ、本当に〝呪言〟を使えるのなら信用もされるだろうけど……。


「グレガー殿は素晴らしい方ですぞ! 〝奇跡〟の力で領地の様々な問題を解決してくださっただけでなく、領民の手助けまで……まさに聖人です!」


「ええっと……ちょっと疑問なんですけど、どうしてグレガーさんの力は〝奇跡〟と呼ばれているんです?」


「む? ああ、領民たちがそう呼び始めたからですよ。民も彼の御力がよくわかっているということですな!」


 ふぅーむ……。


 この世界に住む人間なら、おそらく誰でも魔術を知っている。


 貴族たちがそれを自らの特権とばかりに見せびらかすことも多いからな。


 だからまかり間違っても魔術のことを〝奇跡〟なんて呼ばないと思うんだけど……。


 それに他貴族の礼に漏れず、このボリヴィオという伯爵からも魔力を感じる。


 魔術師なのは間違いない。


 となれば一定の魔術の知識は有しているはずだし、魔術と魔法を見違えたりしないよなぁ。


 街の人たちも完璧に信じてたし、一体どんな手品を使ってるんだ……?


 グレガーはクスッと微笑を浮かべ、


「では、この後直接ご覧に入れましょう。中庭を使ってもよろしいですかな、ボリヴィオ伯爵?」


「いいとも! 自由に使ってくれたまえ!」


「――あの!」


 話が区切られそうになった時、僕は声を上げた。


 どうしても聞いておきたいことがあったからだ。


「えっと……グレガーさんが【呪霊】を退治したっていうのは、本当なんですか……?」


「「……」」


 一瞬沈黙するグレガーとボリヴィオ。


 しかしすぐにフッと笑い。


「ええ、本当です。私はこのケイモスヒル領に封印された【呪霊】を退治致しました。ボリヴィオ伯爵がその証人だ」


「うむうむ、グレガー殿のお陰で心配事が減って大助かりよ。ヌハハハハ!」


「……」


 まるで口裏を合わせたかのように肯定する二人。

 なんだか余計に怪しい。


「ああ……聞くところによれば、リッド・スプリングフィールド殿も以前ご自身の領地で【呪霊】を退治したらしいですね?」


 グレガーはそう言いながら、僕の方へと歩み寄ってくる。


「それだけの若さで奴らと渡り合うとは、本当に神童のようなお方だ」


「【呪霊】は……なにかを訴えてはいませんでしたか!? なにかを聞いてほしそうにしてはいませんでしたか!?」


「はぁ?」


「もしかしたら、彼女たちは犠牲者かもしれないんです! だから――!」


「――【呪霊】など、ただの醜い怪物バケモノですよ」


 冷たく吐き捨てるような口調で、グレガーは言った。


「元を辿れば人間だったかもしれませんが、所詮は人に害を成すモンスター。奴らの鳴き声に耳を傾ける必要はございません」


「でも……!」


「さ、中庭へ参りましょう」


 グレガーはつまらなそうにしながら、中庭の方へと歩いていくのだった。

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