第30話 第一級と特級


 魔術学校に入学してから、三日後。


 ピサロの提案――というか無茶振りにより、僕たちは入学早々モンスター退治へと赴くこととなった。


 クーデルカが「いい感じの討伐依頼がありました!」と早々に見つけてきてくれたためである。


 ……たった三日だよ?

 三日しか授業らしい授業を受けてないのに、もう実践に入るとかアリなの?


 しかもクーデルカはちゃんと学校公認って言ってたし……。


 入学したての六歳児をモンスター退治に向かわせるか、普通?


 大丈夫なのかな、この魔術学校……。


「なーに険しい顔してるんですか、リッド」


「そりゃこんな顔にもなるよ……。いきなりモンスター退治だなんてさ……」


 馬車の中で隣に座るクーデルカに対し、僕はため息交じりに答える。


 ――今、〝クーデルカ組〟こと僕・ピサロ・カティア・クーデルカの四人は王都を出て、とある森の中を進んでいる。


 王都から馬車で半日ほどの距離にある、スホルバッハの森。


 なんでも近頃この森の中にある洞窟ダンジョンに厄介なモンスターが住み着き、近隣の住民が困っているんだとか。


 領主は別のモンスターの討伐で手一杯なため、魔術学校に討伐依頼を出したらしい。


「では改めて、貴方たち三人には第二級・・・の討伐依頼をこなしてもらいます。目標は洞窟ダンジョンに住み着いたジャイアント・スコーピオンを討伐すること。どうやら二体いるらしいので、お気を付けて」


「先生、俺は第一級・・・の討伐依頼を希望したんですけど」


 如何にも不服そうに言うピサロ。


 確かに、三日前彼は第一級の討伐依頼を要望してたっけ。


 対してクーデルカは「どうどう」と彼をなだめ、


「あなたが第一級の魔力階位に生まれたからと言っても、それはイコールすぐに第一級モンスターを討伐できるって意味じゃありません。ちゃんと訓練してから挑まないと、足元をすくわれますよ」


「……」


「初っ端から第一級をやらせるほど、私も鬼じゃありませんから。それにピサロはあくまでリッドの〝呪言〟を見るのが主目的でしょう?」


「それは……まあ……」


「ならこの依頼で十分ですよ。〝呪言〟がどういうモノか、すぐにわかりますから」


 なだめるように言うクーデルカ。


 そんな会話をしている内に僕たちは洞窟ダンジョンの前まで到着する。


「ここが……」


「さっそく入ってみましょうか。皆、一応周囲への警戒を怠らないように」


 クーデルカに先導される形で洞窟ダンジョンへと踏み込んでいく僕たち三人。


 ピサロは全く怖がる様子もなくズカズカと進んでいくけど、カティアは完全に及び腰になってしまっている。


「うぅ……怖いですぅ……!」


「だ、大丈夫だよカティア。クーちゃん先生も付いてるんだしさ」


「――と、皆さん止まってください」


 先頭を進んでいたクーデルカが僕たちを制止する。

 するとその直後、


『カチカチカチ……!』


「で、出た! ジャイアント・スコーピオン!」


「さっそくお出ましですねぇ。手間が省けてなによりです。それじゃリッド――」


「先生、俺に先にやらせてください」


 クーデルカの言葉を遮り、ピサロが図々しく前へ出る。


「え? ちょっと――」


「魔力を雷に、轟く雷鳴となりて、我が手より撃ち放て――〔サンダー・ボルト!〕」


 魔力を練って〝詠唱〟し、魔術を発動。


 刹那――眩い閃光を放つ雷撃がピサロの手の〝刻印〟から放たれ、ジャイアント・スコーピオンに直撃した。


「おお……!」


 僕は思わず驚かされる。


 ピサロは既に〝詠唱〟を習得しており、魔力のコントロールも完璧。


 威力も申し分なく、生身の人間が食らおうものなら一撃で即死してしまえるだろう。


 とても六歳児とは思えない。


 流石は第一級の魔力階位だな……。


『カチ……カチ……!』


「チッ、思ったよりしぶといな」


 しかし硬い殻に覆われたジャイアント・スコーピオンは思いのほか丈夫で、ピサロの雷撃に耐える。


 その後もピサロは連続して魔術を発動し、四度目の攻撃でようやく仕留めた。


 ちょこっと時間はかかってしまったが、しっかりと一体目を撃破。


 魔術を受け続け丸焦げとなったジャイアント・スコーピオンを見て、クーデルカはパチパチと拍手。


「流石ですねピサロ。あなたの歳でそれだけの魔術を扱えるのは、如何に第一級の魔力階位と言えどもそういません。もう少し魔力の出力を上げられれば尚素晴らしい。七十五点を差し上げます!」


「フン……これくらい、できて当然だ」


「では、次は特級の魔力階位の実力を見せる番ですねぇ。ほらリッド、頑張ってくださいね」


「え……あ……うん」


 ニヤニヤと含みのある笑みを浮かべてクーデルカに激励されると、二体目のジャイアント・スコーピオンが洞窟ダンジョンの奥から現れる。


 たぶん一体目がやられたのを察知したんだろうな。


『カチカチカチ!』


「えっと……いつも通り・・・・・やっちゃっていいの?」


「ええ、いつも通りやっちゃってください」


「それじゃ……」


 僕は体内で魔力を練り、いつも通り喉に魔力を込める。


 そして喉の〝刻印〟が輝いて浮き出たのを感じるや、スゥッと息を吸い――



『――【〝爆ぜろ〟】』



 ジャイアント・スコーピオンに対して、〝呪言〟を発動。


 刹那――ズバァンッ!という爽快な爆発音と共に、ジャイアント・スコーピオンは木っ端微塵に弾け飛ぶ。


 一瞬で、一発で、一秒もかからずに、バラバラに吹っ飛んだのだ。


 文字通りの瞬殺である。


「……は?」


 その様を見ていたピサロは目を丸くし、口をポカンと開けて唖然。


 天変地異でも目撃したかのような顔をする。


 カティアもびっくり仰天し、


「い……いい、今、なにが……!? ほんの一瞬で……!? ピサロくんの魔術には、あんなに耐えてたのに……!?」


「お見事ですリッド、百点を差し上げましょう」


 クーデルカはいつも通り・・・・・のニヤニヤ笑顔で僕を褒めると、


「わかりますかピサロ? これが〝特級〟の魔力階位であり、〝呪言〟という魔法の力なのです」

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