第26話 リッドの決意


 ――〝【呪霊】事件〟は、こうして幕を閉じた。


【呪霊】が消滅したことによりフォレストエンド領の危機は去り、僕とクーデルカは無事に父母の待つ家へと下へ帰還。


 帰ってきた僕たちの姿を見て、父様も母様もすごく喜んでくれた。


 涙を流して「よかった」「よくやった」って、何度も何度も頬擦りをしてくれるほどに。


 本当に、温かかったな……。

 二人の気持ちが……。


 事件を引き起こしたフードの男も家に連れ帰り、クーデルカがそれはもう執拗に尋問。


 幻惑チャームだの精神支配だのといった若干物騒な魔術も駆使しつつ、何から何まで情報を吐かせようと奮闘中なのだが―


「……はぁ」


 クーデルカが奥の部屋から出てくる。


 なんとも深いため息を交えて。


「クーデルカ殿、どうだった?」 


「駄目ですね。何度聞いても同じ答えしか返ってきません」


 参りましたよ、とばかりに眉間を指で押さえ、父に答えるクーデルカ。


 どうやら、尋問の成果はあまり芳しくないらしい。


 〝お前は誰なのか?〟

 〝どうしてこんな真似をしたのか?〟

 〝誰に雇われたのか?〟


 それらの質問に対し、


 〝俺は傭兵魔術師だ〟

 〝大金で雇われたからやった〟

 〝雇い主は酒場で会った顔を隠した男だ〟

 〝それ以上はなにも知らない〟


 ……という答えしか返ってこないのだとか。


幻惑チャームもしっかり掛かっているのに同じ答えしか言わないとなると、本当になにも知らない可能性が高いですねぇ、やれやれ」


「つまり、あの人は使い捨ての駒にされたってこと?」


「……リッド、あなた三歳児のくせにどこでそういう言葉を覚えてくるんですか?」


「えへへ」


「褒めているワケじゃないんですけど……」


 彼女は「コホン」と咳払いし、


「ともかくこれ以上は時間の無駄ですね。彼はとっとと王国軍に引き渡すのがいいでしょう」


「……うむ。わかった」


「ゲオルク殿、単刀直入にお聞きしますが……誰かから恨み・・を買うような心当たりは?」


「――ある。こんなことをするのは、バルベルデ公爵を除いて他にいない!」


「あなた……」


 声を荒げる父をなだめようとする母。


 ……バルベルデ公爵。


 魔力測定の場で僕に煮え湯を飲まされた、あの下品な男。


 正直に言うと、僕もアイツの仕業なんじゃないかって薄々思ってはいた。


 クーデルカも口元に手を当て、


「バルベルデ公爵ですか……確かに彼なら大金で傭兵を雇うのも難しくない。配下の者を使って証拠を消すのも容易ですね」


「ああ。しかも子爵と公爵の立場では、俺が疑いを追及することもままならん。全く歯痒いものだ……!」


「ご安心を。仮に真犯人が誰であれ、今回の件は流石にやり過ぎです。テオドール校長にもしっかり伝えておきますから、バルベルデ公爵にも調査の手は及ぶでしょう。今後しばらくは迂闊な行為にも出られないはずです」


「すまないな。クーデルカ殿には本当に助けられてばかりだ……」


「お気になさらず。これもリッドのためですから」


 そう言って僕の頭を撫でるクーデルカ。


 ちぇ、やっぱり子供扱いされてる。


 いやまあ実際に三歳児なんだけど。


「でもあなた……私、なんだか不安になってきたわ……」


 その時、漏らすような声で母が言った。


「私たちのことはいい。けれど三年後、リッドが魔術学校に入学してからもこんなことが続いたらと思うと……!」


「ロザベラ……」


 ああ――そっか。


 今から三年後、僕は親元を離れて魔術学校へ入学することとなる。


 バルベルデ公爵が最も忌々しいと感じているのは父でもスプリングフィールド家でもなく、僕。


 両親の保護下から離れるとなれば、なにかしらの〝嫌がらせ〟をしてく可能性は非常に高い。


 っていうかしてくるだろうなぁ、十中八九。


 大の大人が子供相手にどうなんだ?と思うが、なにせあのバルベルデ公爵だからな。


 そんなのお構いなしだろう。


「奥方様、ご安心を。そこはテオドール校長も――」


「大丈夫だよ、母様」


 クーデルカの言葉を遮り、僕は言う。


「え……?」


「僕、【呪霊】と会って思ったんだ……立派な領主にならなきゃって。領民を守れる、領民のために生きられる、そんな領主にならなきゃいけないって」


 ――あの時垣間見た【呪霊】の、彼女・・の記憶。


 傲慢で身勝手な貴族のせいで、なんの罪もないのに凄惨な最期を遂げた悲運の少女。


 ……もう二度と、あんなことを繰り返してはならない。

 否、繰り返させてはならない。


 そのために僕が出来ることはなにか?


 それは――立派な貴族になることだと思う。

 

 私利私欲に囚われず、私心に塗れず、権力に溺れず。

 自分が本当に守るべきモノのために、力を行使する。


 そんな、スプリングフィールド家に相応しいに子爵になる。


 それが僕がやらなきゃいけないことであり、そうすることが父母への恩返しにもなると思うんだ。


 だからこそ、多くの経験を積まなきゃいけない。


 魔術学校へ入学し、きちんと卒業するのも、その一環。


「だから――僕は魔術学校に行くよ。そこでどんなことが起きても気にしない。僕は……僕自身を立派な子爵にするために、あそこへ行くんだ」


「! リッド……!」


 驚いた顔をする母。


 あっ、三歳児が言う台詞としては流石に大人っぽ過ぎたかな?

 ちょっと困惑させちゃったかも。


 ――なんて思ったけれど、


「……それが、あなたの思い描く貴族であり、あなたの決意なんですね?」


 クーデルカが尋ねてくる。


 その問いに対し、僕はこくりと頷いて返した。


「どうやら【呪霊】と出会って、なにか大事なことを学んだようですね」


「うん。あんまり上手くは説明できないけど」


「いいえ、十分に伝わりました。――百点・・ですよ、リッド・スプリングフィールド」


――――――――――

お読み頂きありがとうございました!

第2章はここまでとなります!


次回から第3章『魔術学校編』がスタート!


さて、ここで皆様に謹んでお願いがございます……。

「第3章が気になる!」「もっとリッドの活躍が見たい!」と少しでも思って頂けたなら、

何卒、何卒!

【☆☆☆評価】と【ブックマーク】をよろしくお願い致します!!!


☆評価は目次ページの「☆で称える」を押して頂ければどなたでも可能です。

何卒、当作品をこれからもよろしくお願い致します!m(_ _)m

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