4 作戦会議

 数日後、次の作戦に向けて、美香は防衛大臣でもある浅波泰蔵と作戦会議に赴いた。


 三宅島まで進出したカーズは、そこにオベリスクを建てようとして、太平洋沖からカーズの大群が押し寄せている。


 もし、今回の作戦で負けるようなことがあれば、三宅島にオベリスクが建ち、日本の本土が直接攻撃を受けることになる。これは危急存亡の重大な作戦で、日本の最高指揮官たちが集結した重要な会議だった。


 泰蔵は美香に、次の作戦の指揮官になるよう勧めたが、美香はさすがに

「無茶なことを言うな、この女子高生のなりだ、いきなりでは他の艦長達も納得しないだろう。しばらくはリハビリさせてくれ」


「まあ、そう言うだろうと思った。それというのも、次の作戦の指揮官には、田口が中将に昇進して選ばれた」


「田口……あの優男か、奴はまだ若い。このような重要な作戦は、彼には荷が重いだろう、他にいないのか」


「人材不足なのだ。カーズに殺られたのは宮部中将だけではない。優秀な士官や提督が、次々と戦死や謎の事故死にあっている。表向きはカーズによるものだが、私は内部的なこともあるのではないかと考えている」

 美香は沈鬱な表情で頷いた。


「それもあり、美香が以前の宮部中将と知っているのは、この会議では私だけだ。田口にも言っていない。特に田口は、わからない奴だ。宮部中将がいた頃はおとなしくしていたが、宮部の事故以来、抑えるものがなくなり若造のくせに政治にまで口をだす。美香が宮部と知ったら、どう出るかわからない」


「……そのようだな」

 深刻な表情で、腕を組んで答える美香の姿に泰蔵は


「しかし、女子高生の君が、どこかの大御所のように話すのは違和感があるな」

 美香は苦笑いすると「気をつけるよ」少しうんざりして、作戦会議に向かった。


 美香が泰蔵のあとについて会議室に入ると

「知らぬ顔が多いな…しかも、見るからに頼りなさそうな奴らばかりだ」

 つぶやくと、聞こえていた泰蔵は


「さっきも言っただろ優秀な艦長達は、多数戦死した」

 やりきれない表情で言う泰蔵に美香も無言になった。


 押し寄せているカーズはこれまでにない大群で、日本の太平洋艦隊の主たる艦長や参謀達が集まっている。錚々たるメンバーの中に入ってくる美香は、場違いな少女だった。しかし、美香は場慣れした感じで躊躇せず、泰蔵の横の席に静かに座った。


 席上はざわついているが、美香は落ち着た顔で少し笑みを浮かべ、周囲の反応を伺うように見渡している。


 泰蔵を挟んだ反対の席には、色白で鼻筋のとおった面持ちに七三に分けた髪型、まさしくエリートといった容姿の田口中将が座っている。かつて宮部が座っていた席だ。

 まず、泰蔵の言葉が発せられた。


「会議の前に、皆も驚いていると思うが、横に座っている者を紹介しよう」

 隣に座る美香がすっと席を立つと、艶やかな黒髪が、ふわりと揺れる。


「浅波准将だ。彼女は次の作戦に海風の艦長として就任してもらう」

 席上はさらにざわついた。すると田口が美香に向かって


「かの宮部中将の旗艦である海風の艦長に就任されるのは若い艦長と聞いていましたが、このような、うら若い女性艦長とは驚きました。確か泰蔵大臣のお孫さんだそうですね。はじめまして、私し今回の作戦の指令を務めます田口です」

 田口はT大学主席で父親は元首相という、三十歳で司令長官に登りつめたエリートだ。


 もともと宮部の下で働いていた人材で、知識は豊富だが、親の七光りで持ち上げられ、人を引っ張っていく人望や、決断力に乏しく猜疑心も強い。そんな、いつもの田口なら突然現れた場違いな少女に皮肉の一つでも言うかと思われたが、何か考えのあるような薄ら笑みを浮かべた眼で美香を舐めるように見つめている。そんな田口を横目に泰蔵は


「ごらんのとおり、まだ若い女子高生だ、世間に知れては騒ぎにもなろう、このことは極秘とする。ただ、私の口から言うのもなんだが、優秀だということは申し添えておく、ここは何もいわず、私を信じていただきたい」


 納得いかない表情の艦長もいるが、頭を下げた泰蔵の言葉にだれも意義を唱える者はいなかった。席上が落ち着いたのをみて

「それでは、これより作戦会議を始めてもらいたい」



 続けて、大軍で押し寄せるカーズ迎撃作戦の会議が始まった。

 作戦は、大きく二つに意見が分かれた。潜水艦隊を率いる近藤大佐は、硫黄島付近の海域で先制攻撃を提案したが、洋上艦の猛者である重松大佐は、父島沖で迎え撃つ作戦を推奨した。


 二人とも数少ない歴戦の強者で、集まっている参謀たちの中では影響力の強い二人であり、信頼も高い。泰蔵は横に座っている美香に小声で

「どちらの作戦がよいだろうか」


「さすが近藤に重松、どちらもよい作戦です。じゃんけんで決めてもよいくらいですよ」

「それは心強い。そういえば、二人とも宮部中将の愛弟子だったな」

 泰蔵は満足そうに頷いた。


 しかし、作戦会議は思わぬ方向に動いた。

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