4 父島偵察(沖田救出)1
カーズへの反撃の大作戦「霧の雷鳴」に向けて、太平洋諸国の艦隊は動き始めている。
その作戦が迫った頃、海風は作戦の遂行に重要な父島に向かって、穏やかな太平洋を単独航行していた。
海風は父島に近づくと潜航し、モニターに写される潜望鏡の映像で、カーズの群を視認した。
美香は、斜め下のシルビアに
「浮遊カーズが約百匹程度こちらに向かっています。父島のオベリスクまでの距離は」
シルビアはモニターを確認しながら
「約二百キロです」
「まだ遠いわね。海風でカーズをひきつけて、その間にガネットフェンサーで戦域を迂回してオべリスクを偵察しましょう」
美香は来るべき「霧の雷鳴」作戦に対して、父島は重要と考えている。
父島のオベリスクを破壊しないと、その先にあるグアム沖のオベリスクに取り付けず、太平洋の同時攻撃ができない。
そこで、まずは海風で父島の偵察をおこない、できればそのまま父島のオベリスクを破壊する威力偵察を提案したのだった。
◇
海風は浮上し、敵にわざと姿を晒して浮遊カーズを引き付け、その間に艦底から沖田のガネット隊が海中から発進して偵察に向う作戦だ。
しばらくして、目論見通り浮遊カーズが空から向かってくる。
海風の艦底から発進した沖田隊のガネットフェンサーは、そのまま潜航して海風から三十キロ付近まで離れると、一気に海中から飛び出し、そのまま飛行モードに移行する。
上空で雲を探して身を隠しつつ父島に向かった。
父島は島全体に濃い霧がたちこめ、同時に通信が悪くなり海風との交信ができなくなる。
オベリスクは特殊な電波を発し、近づくと電波障害でレーダーや通信が使えなくなり、誘導ミサイルなども使えない。
さらに、常に霧に覆われ人工衛星からの確認や、赤外線レーダーも使用できない。このためカーズを倒すには、目視の射撃による近接戦となる。
霧の中に入ったあと、しばらくして眼の前が開け、白い網を結ったような塔が現れた。
「オベリスクだ」
雑音がひどいが、近くの航空機とはなんとか通信できる。沖田は友軍機に合図を送ると、写真を撮り始めた。沖田は、さらにオベリスクに接近するがカーズがいない
「罠かもしれない、うかつに接近できない。まずは私一人でいく。全機、待機していろ」
沖田はそのまま単機で降下し、オベリスクの横をすり抜けた
「何もない。単なる、網籠の塔のようだ……! 」
その時、オベリスクの足元に人影をみた。
「女性が……」
こんな場所に女性が一人でいるはずがない。
両手を広げ、なにか唄っているように見える。そのとき、耳元に小さな声が聞こえてきた。以前、美香の言っていた人魚の声に注意するように言われたことを思い出し、すぐに友軍機に伝えた
「全員退避しろ! 」
と通信したと同時に、霧の中から浮遊カーズが襲いかかってきた。
視界が真っ暗になるほどの大量のカーズに囲まれた沖田は反撃を試みるが、数の多さに対抗できない。
翼、胴体にカーズの触手が突き刺さる。
コックピットに直接、触手が向かってくるのが見え、沖田はその直前にコックピットから脱出した。
他の友軍機はかろうじて、父島から離れたが、沖田の機体は串刺し状態で撃墜され、脱出した沖田はパラシュートで降下するが、そこにも浮遊カーズが襲ってきたため、途中からパラシュートを離して海に飛び込んだ。
◇
沖田隊が海風に戻ってくると、隊長の沖田が取り残された情報がもたらされた。
最後にパラシュートが開いたのを確認しているが、敵の真只中だ。
特に心配しているのはシルビアだった。平静を装っているが落ち着きがない。
美香や加藤達が海図をにらみ沖田の不時着地点を推定していた。
「海風で強行突破しますか」
加藤が提案するが、美香は深刻な表情で
「もともと海風で突入するつもりでしたが、全速力でも五時間はかかります。早くしないと沖田がカーズに見つかってしまう」
「これだけの浮遊カーズだ、下手に戦闘機隊でいくのも危険です。海風と一緒でないと」
美香はしばらく考えたあと意を決し
「私がいきましょう」
「艦長が……もしや、一人で」
美香は頷いた。
「それは……」
加藤は言葉が詰まった、しかし他に策もない。
沖田を見捨てる選択枝もあるが、だれも口にはだせない。それが言えるのは、艦長の美香だけだ。しかし、美香は助ける判断をした。
◇
シルビアは出発準備で着替えている美香のところに来ると、不安そうな表情で
「艦長……沖田君を助けるのは正直うれしいのですが、危険です。もし、艦長に何かあれば……」
「兵卒の一人など気にするなと言いたいのですか。確かにその通りです」
決して良い判断ではない、大将が危険に晒されるのだ。一戦闘機が撃墜されるのは多々あることで、敵中に墜落したものを簡単に助けにはいけない。
「これまでの宮部中将なら、時に厳しい判断をされてきました。以前、犠牲が出ることを苦渋の想いで覚悟し、撤退を決断されたこともありました」
すると、美香はシルビアにやさしく微笑んで
「大丈夫。必ず救いだします。それに、どう考えても、私しかいないでしょ」
美香は胸のチャックを上げ、女性的な体のラインが浮きでるスーツを着込むとヘルメットを取り通路の奥に消えて行った。
強い南風が吹いて、青空に浮いている綿雲が早い。
甲板のカタパルトには、純白のガネットフェンサー零式が発進をまっている。残っているクルーや沖田隊のパイロット達は、その天使のような機影に、毅然とした力強さを感じていた。
ガネット零式はエンジン音を上げ始めると、ブースターを爆発的に噴射させ。カタパルトから太平洋の青の水平線に向かって、流れるような曲線で飛翔していった。
「きれいな、発進だ」加藤は指令室から、飛び立った美香を見て。
「勇敢な方だ。あのカーズの群れの中に突っ込むなど常人では考えられない。我々はあの方に何度救われたことだろう」
賞賛する加藤だが、その口調は重い。近頃疲れた表情をたまにする美香を気にしているのだった。
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