6 美香の実力(小笠原沖、カーズ迎撃戦)7
「ほんとにやったのか…あのビッグカーズを」
海風のクルーやパイロットは夢を見ているようだった。支援があったものの、たった一機で倒したのだ。
かつて、ガネット戦闘機で撃退したことは伝説だと言われていたが、今目の前に起こったことは真実だ。
それを見ていた加藤が、我がことのように誇らしげに
「見たか! あれが真のガネット戦というものだ。歴戦の強者はいなくなった、かつての戦の映像は妨害電波などで残っていない。今再び目にすることができようとは、生き延びた甲斐があったというもの」
加藤は拳をにぎりしめ涙声で話している。そこに重松艦長から海風に通信がきた。
『あのガネット零式にはだれが乗っているのだ』
重松も驚いていた。返事に窮した加藤は
「すみません、実は極秘でして」
『その声は加藤か、久しぶりだな。なにか事情がありそうだな、まあ聞かないでおこう。ところで、支援してくれた艦長に礼が言いたいのだが』
加藤はさらに困って
「申し訳ありません、艦長は今、席をはずしていまして」
重松は一瞬、意外に思ったが想像がついたようで
『席をはずす……そうか、浅海大臣の切り札ということだな。解った、また改めて礼を言おう、艦長をねぎらっておいてくれ』
「あっ……ありがとうございます! 」
加藤は自分が褒められたような気になり、興奮のまま通信を切った。
◇
激戦を終えた重松と近藤の鑑隊は海風と共に、田口の隊に合流し、帰還の途についた。帰還の途中、美香は田口に呼ばれてヘリで信濃に向かった。
勝手な行動をとったことを叱責されると思われ、加藤とシルビアも心配していたが。戻ってきた美香は、甲板に迎えに来た加藤とシルビアを見ると
「あいつ、何を考えてるんだ……」
美香は疲れた表情でぼやいている
「どうされました」
美香は鞄から小さな箱をとりだして、空けてみせた。
「金のネックレスではないですか! どうしたのです」
シルビアが驚いていると。
「……もらった」
美香がぽつりと言うと。加藤とシルビアは目を合わせている。美香は
「どうも、近藤と重松を救った私への功績らしい」
「勝手な行動をとった責任を問われるのではないかと、心配していましたが」
「私もそう思ってた。でも、田口はそんな瑣末なことは気にしない大物……らしい。自分でそう言っていた」
加藤とシルビアはあきれている。美香は小箱を鞄にしまうと
「ここで私を叱ると、近藤と重松が黙っていないだろう。そういうことは気のつく奴だ。だいたい戦場になぜ、こんなものを持ってきているのだ」
美香はあきれ顔で言うと、とシルビアは
「たぶん、艦長へのプレゼントでしょ。そういうところも、変に気のつく人みたいですから」
美香は辟易した表情で納得すると。休む、と言って自室に戻って行った。
◇
海風は波静かな洋上を順調に進み明日にも母港に戻るといった日、シルビアがいつもと違うやや濃いルージュをひいて、沖田の待つ士官専用のロビーに向かった。
沖田は、すでに奥の席に座っている。
「どうしたの、作戦中に私を呼ぶなんてめずらしいわね」
そういって沖田の前に座ると。沖田は、いつものように伏し目がちで目を合わさないように話をする
「浅波艦長とは、いったい何者だ」
挨拶もせず、いきなり本題に入る沖田を見つめてシルビアは
「久しぶりにあなたから声がかかったから、来てみるとそんな質問」シルビアはため息をついて「さあ、知らないわ、浅波泰蔵大臣の孫娘ってことくらいしか」
「十七歳であの飛行技術はあり得ない。人間業とは思えない」
沖田は、長い髪をかきわけて何か考えているようで虚ろな目をしている。もともと口数が少ないので不機嫌そうにも見える。
「ねえ、沖田君、忙しい私を呼び出して、その話だけ」
「あっ…いや」
沖田が気の無い返事をすると、シルビアが薄ら笑みを浮かべて沖田を見つめた。見つめられた沖田は顔を赤らめて目をそらしている。
そこに、指令室の女性クルーにお茶に誘われた美香達が入ってきた。沖田とシルビアの二人に気が付くと、そばに寄ってきて
「シルビア少佐と沖田大尉は、知り合いだったの」
シルビアは微笑みながら
「ええ、士官学校の同級生です」
「そうだったの」
すると、周りの女性クルーが美香の袖をひいて耳元で
「もう艦長、雰囲気をさっしてよ、ここはおじゃまだし、いきましょ」
さすがに、美香も気づいて
「そ…そうね……それじゃあ、またあとで」
あわてて席を離れようとすると。沖田が急に立ち上がり
「艦長! あとで、お聞きしたいことがあるのですが」
美香は自分に声が、かかったことに驚いて
「わたしに……」
沖田がうなずくと。美香はシルビアの顔色を伺いながら
「まあ、少しくらいなら……」
「それでは、あとで連絡します」
沖田は立ち上がり少し頭を下げると、すぐに、その場から離れていった。
美香は気まずそうにシルビアをみると
「あ…ごめんなさい。なんか…」
「まさか! 勘違いしないでください。沖田君とは単なる同級生の友人です。でも、堅物で、女性との付き合いが全くできない人ですから。少しくらい、迫ってやってください」
なぜか冷徹な微笑を残してシルビアは立ち去っていった。言葉のない美香に
「もう! 艦長ったら。あれ、絶対怒ってるよ」
「私も、そう思う……」
一緒にきた女性クルーに白い目で見られて、美香は小さくなっている
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