6 美香の実力(小笠原沖、カーズ迎撃戦)7

「ほんとにやったのか…あのビッグカーズを」


 海風のクルーやパイロットは夢を見ているようだった。支援があったものの、たった一機で倒したのだ。


かつて、ガネット戦闘機で撃退したことは伝説だと言われていたが、今目の前に起こったことは真実だ。


 それを見ていた加藤が、我がことのように誇らしげに

「見たか! あれが真のガネット戦というものだ。歴戦の強者はいなくなった、かつての戦の映像は妨害電波などで残っていない。今再び目にすることができようとは、生き延びた甲斐があったというもの」


 加藤は拳をにぎりしめ涙声で話している。そこに重松艦長から海風に通信がきた。


『あのガネット零式にはだれが乗っているのだ』

 重松も驚いていた。返事に窮した加藤は


「すみません、実は極秘でして」

『その声は加藤か、久しぶりだな。なにか事情がありそうだな、まあ聞かないでおこう。ところで、支援してくれた艦長に礼が言いたいのだが』

 加藤はさらに困って


「申し訳ありません、艦長は今、席をはずしていまして」

 重松は一瞬、意外に思ったが想像がついたようで


『席をはずす……そうか、浅海大臣の切り札ということだな。解った、また改めて礼を言おう、艦長をねぎらっておいてくれ』


「あっ……ありがとうございます! 」

 加藤は自分が褒められたような気になり、興奮のまま通信を切った。


 激戦を終えた重松と近藤の鑑隊は海風と共に、田口の隊に合流し、帰還の途についた。帰還の途中、美香は田口に呼ばれてヘリで信濃に向かった。


勝手な行動をとったことを叱責されると思われ、加藤とシルビアも心配していたが。戻ってきた美香は、甲板に迎えに来た加藤とシルビアを見ると


「あいつ、何を考えてるんだ……」

 美香は疲れた表情でぼやいている

「どうされました」

 美香は鞄から小さな箱をとりだして、空けてみせた。


「金のネックレスではないですか! どうしたのです」

 シルビアが驚いていると。


「……もらった」

 美香がぽつりと言うと。加藤とシルビアは目を合わせている。美香は


「どうも、近藤と重松を救った私への功績らしい」

「勝手な行動をとった責任を問われるのではないかと、心配していましたが」


「私もそう思ってた。でも、田口はそんな瑣末なことは気にしない大物……らしい。自分でそう言っていた」

 加藤とシルビアはあきれている。美香は小箱を鞄にしまうと


「ここで私を叱ると、近藤と重松が黙っていないだろう。そういうことは気のつく奴だ。だいたい戦場になぜ、こんなものを持ってきているのだ」

 美香はあきれ顔で言うと、とシルビアは


「たぶん、艦長へのプレゼントでしょ。そういうところも、変に気のつく人みたいですから」

 美香は辟易した表情で納得すると。休む、と言って自室に戻って行った。


 海風は波静かな洋上を順調に進み明日にも母港に戻るといった日、シルビアがいつもと違うやや濃いルージュをひいて、沖田の待つ士官専用のロビーに向かった。


沖田は、すでに奥の席に座っている。

「どうしたの、作戦中に私を呼ぶなんてめずらしいわね」


 そういって沖田の前に座ると。沖田は、いつものように伏し目がちで目を合わさないように話をする


「浅波艦長とは、いったい何者だ」

 挨拶もせず、いきなり本題に入る沖田を見つめてシルビアは


「久しぶりにあなたから声がかかったから、来てみるとそんな質問」シルビアはため息をついて「さあ、知らないわ、浅波泰蔵大臣の孫娘ってことくらいしか」


「十七歳であの飛行技術はあり得ない。人間業とは思えない」

 沖田は、長い髪をかきわけて何か考えているようで虚ろな目をしている。もともと口数が少ないので不機嫌そうにも見える。


「ねえ、沖田君、忙しい私を呼び出して、その話だけ」

「あっ…いや」

 沖田が気の無い返事をすると、シルビアが薄ら笑みを浮かべて沖田を見つめた。見つめられた沖田は顔を赤らめて目をそらしている。



 そこに、指令室の女性クルーにお茶に誘われた美香達が入ってきた。沖田とシルビアの二人に気が付くと、そばに寄ってきて


「シルビア少佐と沖田大尉は、知り合いだったの」

 シルビアは微笑みながら

「ええ、士官学校の同級生です」

「そうだったの」


 すると、周りの女性クルーが美香の袖をひいて耳元で

「もう艦長、雰囲気をさっしてよ、ここはおじゃまだし、いきましょ」

 さすがに、美香も気づいて


「そ…そうね……それじゃあ、またあとで」

 あわてて席を離れようとすると。沖田が急に立ち上がり


「艦長! あとで、お聞きしたいことがあるのですが」

 美香は自分に声が、かかったことに驚いて


「わたしに……」

 沖田がうなずくと。美香はシルビアの顔色を伺いながら

「まあ、少しくらいなら……」

「それでは、あとで連絡します」


 沖田は立ち上がり少し頭を下げると、すぐに、その場から離れていった。

美香は気まずそうにシルビアをみると


「あ…ごめんなさい。なんか…」

「まさか! 勘違いしないでください。沖田君とは単なる同級生の友人です。でも、堅物で、女性との付き合いが全くできない人ですから。少しくらい、迫ってやってください」


 なぜか冷徹な微笑を残してシルビアは立ち去っていった。言葉のない美香に

「もう! 艦長ったら。あれ、絶対怒ってるよ」

「私も、そう思う……」

 一緒にきた女性クルーに白い目で見られて、美香は小さくなっている

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