6 美香の実力(小笠原沖、カーズ迎撃戦)6
一方、海風も全速力で戦域に向かい、電波は悪いが沖田隊をレーダーとモニターでとらえることが出来た。
美香は苦戦している沖田に
「沖田はチーム3、チーム5を率いて右から回りこんで挟撃して」
美香が指示するが、沖田は
『簡単に言ってくれる。そんなことを言われても、無理だ! 』
すると、加藤は語気を強めて
「何を言う、艦長の命令だぞ! 」
『カーズを目の前にして戦っているのは俺たちだ、命を懸けてるんだ。指令室で、すましているお嬢様にわかるのか』
「沖田! いいかげんにしろ! 」
加藤は真っ赤になるが
「まあ、彼の言いたいことも、わからないでもない」
妙に納得する美香だが。加藤は、
「しかし、艦長……しょうのないやつだ。だいたい、すぐに“無理”、“しんどい”、“面倒くさい”、を言う奴にろくな奴はおらん!」
加藤がふてくされていると、美香は微笑みながら
「加藤は相変わらず、お堅いな」
「艦長が温厚すぎるのです」
美香は、沖田を腕のよいパイロットとだと思っているが、気持ちが高ぶりやすく、時に無謀なこともする。
どうしたものかと考え込んでいる美香に
「今、歴戦の強者は沖田しかいないのも事実ですからな。もっとも沖田は宮部中将を神様のように慕っていましたから、他の上官では納得できないのでしょう」
加藤の話を聞いた美香は、仕方ない、といった表情で立ち上がると
「ガネットフェンサー零式を出します! 」
突然の思わぬ美香の発言に周囲のクルーは驚いて。
「ガネット零式って、あのパワーだけは強い暴れ馬といわれる戦闘機。沖田大慰でも乗りこなせない代物です。往年の宮部中将と、英国のシュナイダーが乗りこなして撃墜王となり、あのビッグカーズを倒した伝説もある。いったいだれが乗るのですか」
美香は艦長席をおりて
「私が出ます。準備を急いで!」
さらに、クルーは信じられない表情で絶句している。美香は加藤に
「あとはたのみます」
「は! ははっ! 」
加藤は直立して敬礼し、美香は一人指令室を出て行った。
クルーたちは気がふれたのかと思っているが、加藤だけは感動して震えている。しらずに涙目になっている。
周りのクルーが固まっている加藤を見て。
「加藤大佐、どうされたのです。早くとめなくては、艦長といっても女の子ですよ」
加藤は振り返ると。
「ばかもの! 貴様ら、艦長殿の戦いをよーく見ておけ、本当の対カーズ戦闘機ガネットがどれほどの威力があるものか、恐らくこれまでの戦いが子供の喧嘩に見えるだろう」
真剣な加藤の言葉に、クルーは信じられないといった様子で黙っている。
◇
ガネットフェンサー零式は、海風の発進カタパルトに移動し着座した。美香は体にフィットした戦闘服を着込み、発艦を待っている。
発進シグナルが点灯すると、爆音とともに急加速し青空へ舞い上がっていく。指令室のクルーは、美香の見事に飛び立つ姿を、ただ見送るだけだった。
美香はそのまま、苦戦している沖田の戦闘空域に向かった。
一方、沖田は劣勢の戦隊を立て直そうとしているが、数の多さに反撃できない。
「一度、撤退する。もう、持ちこたえられない」
沖田が部隊に撤退を指示した時だった。
「沖田大尉! 東北東から猛スピードで接近する機影があります」
「何だ!」
「……ガネット零式と思われます! いったい何者」
勝負は一瞬だった。
戦闘空域を串刺しに縦断し、純白のガネットフェンサー零式が矢のように飛翔する。通過したあとに、浮遊カーズが次々と海中に没していた。
「……! 」
パイロットたちは一瞬何が起こったのかと思った。
とても、通常のガネットの動きではない、さらに白い機影は、他のカーズの一群に向い、ソードビームで次々と、浮遊カーズを切り裂いた。
カーズは、向かってくるガネット零式に反撃をする間もなくソードビームの刃にかかっていく。
沖田や、他の機体も呆然と見ているだけだった。海風の指令室からも、その状況をクルー達が見ている。
「なんなのあれ。本当にガネットなの」
すると、加藤は勝ち誇ったように
「みたか! あれが艦長殿の実力だ! 今のパイロトなど艦長の前では子供同然だ。艦長一人で戦艦いや、一艦隊分の働きをなさることもできよう」
少しオーバだが、それには、クルーたちも頷いた。
興奮して話している加藤は苦楽をともにしてきた、若かりし宮部中将を髣髴させる美香の姿に感動している。
白のガネット零式は、浮遊カーズを、ほぼせん滅すると戦闘空域を大きく迂回し、急降下したあと、海面から数メートルの超低空からビッグカーズに突入する。
「おい、ビッグカーズに突撃するのか!」
そのとき、ガネット零式から沖田に通信が入ってきた、それは若い娘の声だ
『沖田大慰! ビッグカーズは甲羅の下の腹に、無数の触手があります。両側から攻撃をしかけて腹の触手を外側に向けてください』
「か…艦長なのか! あんな動きができるのか」
沖田はまさかと思った。ガネット零式は高性能だが、出力が強すぎて制御が難しく、まさに暴れ馬と言える。
沖田も乗ったことがあるが、まともに乗りこなせるものではなかった。それを、あの小娘…美香は巧みに操縦し、しかもビッグカーズを相手にしようとしている。
沖田は目の前に起こっていることが、とても現実とは思えなかった。
『どうしたの早くして! 一機だけではどうしようもありません、組織攻撃でないと倒せません! 』
茫然としている沖田に、美香の声が突き刺さる。目の覚めたような沖田は
「何をするつもりだ」
『両側に開いた触手の中の、胸にある急所を突きます』
「なんだと! 死ぬつもりか」
『とにかく早く!』
「むちゃくちゃだ! 」
沖田はそう言ったものの、ビッグカーズに突っ込む美香を見捨てるわけにもいかず、隊を二手に分けビッグカーズを両側から攻撃し始めた。
無数にある触手は両側から迫る沖田の攻撃を振り払っている。
そのとき、超低空から美香のガネット零式が、カーズの懐に、見事な螺旋状のバレルロールで触手をかわしながら潜り込んだ。
「ほんとに、突っ込んだ……」
ガネット零式はビッグカーズの腹の下に入りこみ見えなくなる。
しばらくして、ビッグカーズが唸り声を上げてその巨体を起こし、暴れはじめた。
美香がソードビームで胸部を突き刺したのだ。
体長千mの巨体が山のように立ち上がると、腹側にあるムカデのような足と、無数の触手が不気味に蠢いているのが露わになり、そのおぞましい光景を、海風をはじめ周りの艦船や戦闘機の兵士は背筋が凍る思いで見ていた。
その触手の中を、小さな一点の光がカーズの頭に向かって上昇している。
「あの、触手の中を飛んでいるのか」
他のパイロットは幻を見ているようだった。触手の攻撃を可憐にかわしながら輝くような白のガネットの光が上昇すると、最後にカーズの頭部を撃ち抜いて離脱した。
大きな悲鳴に似た怪音が周囲に轟くとともに、直立したビッグカーズは巨大な岩石崩壊のように大きな水柱とともに海面に倒れ、そのまま海中に沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます