6 美香の実力(小笠原沖、カーズ迎撃戦)5

 半日後、父島沖の重松艦隊は、全くやる気がなかった。


「とっとと撤退だ! カーズが来ないうちに全艦離脱するように」

 それを聞いた副艦長は呆れながら

「艦長、初めから撤退するつもりで」


「こんな愚策で勝てるはずはない、海風も早々に離脱したそうではないか。あの優秀な艦船に小娘を艦長にした時点で、やる気がない、と言っているようなものだ。それに、あの娘はどうも田口のお気に入りだ、それで海風の離脱にもあっさり同意したのだろう」

 あからさまに皮肉を込めて重松は言う。


「あの、海風が……宮部中将の頃の海風は、鑑隊の先頭を切って颯爽と敵をせん滅していたのに……」


 そんな副長の言葉に重松も頷くと、やりきれない表情で艦橋から見渡せる水平線を睨んだ

「さあ、早く引き返すぞ、兵卒を無駄死にさせられない。近藤は先行しているから、すでに交戦しているだろう。優秀な奴だ、うまく逃げ切ればよいが……」


 そのとき突然、空を覆うように浮遊カーズが襲ってきた。


 浮遊カーズは艦船からの弾幕をかいくぐり、硬質な爪で艦船に取りついて破壊する。中には蜂のように尻の針で、強電磁波で破壊するものもある。


 ある意味捨て身の攻撃だが、数が多く艦船に蟻のように群がっていく。さらに、艦隊の真只中に巨大な塊が浮かび上がった。


「何! もう、ビッグカーズがここまで来ていたのか! 」

 カーズの進撃は、重松の予想をはるかに上回っていた。


「前方の二番鑑、三番鑑、回避が間に合いません! とりつかれます!」 

 前方の艦船に浮遊カーズが迫ると同時にビッグカーズの巨大な触手が艦船を貫いた。


 その間も、空からのカーズの奇襲に重松は打つ手がない。後方の田口に支援を要請したが、発艦準備をして到着に三時間はかかるとのことだった。


「なぜ、そんなにかかる、田口は空母と艦載機を温存したいのか……それとも俺や、近藤が煩わしいのかもしれないな。とにかく生き残るぞ! こんなところで、くたばってたまるか。撃ちまくれ! 」


 カーズはさらに艦隊上空を覆い、各艦船に攻撃を仕掛けて、その数にとても対応できない。重松は周りに聞こえないように呟く


「うかつだった、こんなに早く進撃してくるとは……ということは、近藤は大丈夫だろうか」今は人のことを心配しているときではない「逃げ切るには、ビッグカーズを何とかしなければ」

 しかし、体制を崩された艦隊は対応できない


「残った鑑船全体でビッグカーズに集中攻撃をしかける。ただ、無理に戦う必要はない、戦力の整わない艦船は撤退するように。他の船も自己判断で離脱せよ」


 指示はするものの、囲まれた艦隊に逃げ場はなかった。残った艦船から砲雷撃戦が行われるが、すでに二十%程度の火力しかない。さらにビッグカーズに仕掛る分、空からの攻撃にはまったく無防備で、次々と浮遊カーズがとりついていく。


 重松の艦船にも浮遊カーズが突込できた。

「援護の部隊はまだか! 」重松はむなしく叫ぶが援軍の気配はない。重松は覚悟をきめ「ここまでだ…これ以上の戦いは無駄死にだ……全員離脱しろ」


 撤退の指示を出したが、離脱できる余力のある船はなく、海に逃げてもカーズの餌食になるだけだった。


 その後、全ての艦船に浮遊カーズがとりつき、その艦船にビッグカーズがとどめを刺しに向かっている。


 その頃、重松鑑隊の東方百キロの洋上に海風が急速浮上した。


 艦長席に座る美香は、沖田隊に厳命する。

「沖田隊、全機発艦! 目標、重松鑑隊に攻撃中の浮遊カーズ」


 潜水中は格納されている、海風の二連カタパルトから次々とガネットフェンサーが発進する。その後、海風も全速力で重松の艦隊に向かった。



 沖田は十数分で戦闘空域に達すると

「上空に厚い雲がある。そこから急降下で奇襲する、高度三千mまで上昇しろ」


 沖田隊は雲の上から重松鑑隊のカーズに目標を定めると、

「全機攻撃開始! フォーメーション、デルタでダイブだ! 」


 沖田隊は三機が一塊になり、高度三千mから急降下攻撃を開始した。カーズは艦船に集中し低空で攻撃しているため、上から襲いかかる沖田隊に気付かない。


 浮遊カーズは沖田の突然の豪雨のような猛攻に次々と海中に墜落していく。最初の一撃で半数以上のカーズが撃墜され、そのまま沖田は乱戦に持ち込んだ。


 重松をはじめ他の艦船も思いもよらない空からの援軍に驚いていた。瀕死の艦船を操っている重松は、

「どこの戦闘機だ」


「あの、機影は……青のガネットフェンサー。海風の沖田隊です! 」

「海風だと……」


 レーダーのオペレーターが

「東方約百キロに艦船が一隻こちらに向かっています! これは、まさか海風……」


「なんだと! 海風は離脱どころか、海中から我々を追い越して敵の背後に回り込んでいたのか……だとすると、近藤の鑑隊を援護していたのだろう。小娘と思っていたが、なかなかやるな」


 重松は笑みを浮かべて、顔を上げると

「全艦、反撃だ! ミサイルと砲雷撃を」

 重松の瞳に光が戻った。


 浮遊カーズはミサイルのような飛び道具はないが、空中静止や複雑な動きをするため、これに対応すべく、ガネット戦闘機は二基のエンジンを可動式にして、同じく空中静止や上下左右の複雑な動きができる。


 カーズには特殊な電磁波を出すものがあり、誘導ミサイルはジャミングされ使えないため目視照準によるミサイルか、射程百mほどのビーム砲を使って近接で戦うことになる。


 ビーム砲は連続照射ができ、剣のように突いたり切りつけたりするソードビームであり、まさに剣闘士フェンサーの戦といってよい。


 沖田は、最初の一撃で浮遊カーズをかなり落としたが、まだ大多数残っている。さらに、ビッグカーズもいる。

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