プロローグ(2/2)~名将、宮部中将~
災厄の源、長さ千m以上ある黒い巨大な塊は、人間自らが生み出した膿と言うべきものであり、呪われた生物「カーズ」と名付けられた。
それは、日本の沿岸全体を襲い、東京湾に入り込んだカーズは、津波だけでなく巨大な甲羅を共鳴震動させ平野の下に伏在している活断層を刺激し、マグニチュード7クラスの直下型地震を二百回以上発生させ、都市を壊滅させていく。その災厄は日本だけでなく、世界中に及んだ。
しかし、猛威を振るうカーズに対し、人類は手をこまねいているだけではなかった。
世界の主要国はカーズに対する防衛網を組織していく。海洋の周辺諸国は軍や自衛隊などが手を組んだ、対変異生物防衛機構(Artificial mutat-organism defense organization)、通称AMDO(アムド)として連合軍が組織され、日本は環太平洋のアムドの一員として、先鋒的な立場でカーズとの戦闘に臨んだ。
◇
「
成人した宮部修一郎は同じ大学に通い、中学生の頃からの友人、
「アムドに入るのだな」
「ああ、俺はカーズの猛威に没した者の無念をはらし、今も苦しむ人達を救いたい」
「それが、お前の信念だったな。おれは、政界に出るつもりだ、そちらの方から、お前達を支援したいと思っている。ただ、小春さんのこともある、結婚するんだろ。命をそまつにするなよ」
「わかっているさ」
大学卒業後は袂を分かれ、宮部は士官候補試験を受けアムドの太平洋艦隊に入隊した。一方、財閥の家系でもある泰蔵は、中央官庁から政界に進み、その財力も合わせて防衛大臣にまで登り詰める。
◇
その後の宮部は、カーズとの戦いに明け暮れ、若いころは戦闘機に乗って名を馳せ、日本近海だけでなく大西洋、インド洋など世界の海で戦い、戦果を上げる一方、多くの戦友も失った。
壮年になると、空戦の戦歴を生かし、空母の艦長となり、さらに数々の艦船の艦長を歴任してカーズを撃滅し、中将としてアムド太平洋艦隊の長官となる。
こうした宮部中将の率いるアムドの太平洋艦隊は、カーズに苦戦する諸外国の中で突出した戦果をあげ、人類の希望とも言える存在にまで例えられたが、宮部の生涯は思わぬ結末を迎える。
―某地方空港―
「宮部中将! 軍用機か、せめて護衛機をつけられては」
心配する部下の進言に宮部は背を向けたまま
「今回は私用だから、軍用機を使うわけにはいかない。しかも、カーズは一般人の乗る旅客機を襲ったことはない。まして私が乗っていることなど知るよしもないから、かえって安全だよ」
笑いながら答える宮部は、他の一般客とともに出発ゲートに消えたが、それが宮部の最後の姿になるとは、だれも想像しなかった。
◇
その悪夢の出来事は、明らかに宮部を狙ったものと言える。
飛行できるカーズが制空網を突破して宮部の乗った旅客機に捨て身で激突してきたのだ。旅客機は山中に墜落し、宮部を含め乗客乗員は、ほぼ全員死亡する。
これを機会にカーズは再び猛威を振るいはじめ、太平洋艦隊は追い詰められ、艦隊をはじめ世論は今さらながら宮部中将の非凡さを痛感し、その死が悔やまれるとともに絶望の淵に立たされた。
確かに名将、宮部中将は死亡したのだが……
宮部中将の飛行機事故(攻撃)で乗客乗員は、ほぼ全員死亡したが、焼け焦げた機体の外に投げ出され、脳死ながらも奇跡的に生き残った、十七歳の浅波美香という少女がいた。
偶然乗り合わせていた普通の女子高生の美香だったが、そのめぐり合わせは、この事故で亡くなった宮部の抱いているカーズへの憎しみ、さらに宮部の意識そのものを引継ぐことになる。
こうして、十七歳の少女、浅波美香は宮部に代わり広大な太平洋の深海で、猛襲するカーズに挑むことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます