2 反撃2
そのとき洋上の沖田も海風を確認した
「海風だ! カーズに取りつかれている。」
沖田は海風に当たらないようにカーズに攻撃を仕掛けた。カーズは海風を締め上げるように破壊し始めている。
「ふりほどけません!」
加藤が、悔しそうに叫ぶ。
浮上しようとする海風に対し、ビッグカーズが海中に引きずり込む。そのせめぎ合いだが、軍配はカーズの方だった。海風はゆっくりと沈んでいく。
「深度100…200…」
美香は、苦渋の表情で
「カーズは、この海風ともに深海に引きずり込むつもりね。電磁ショックは」
「ききません、それより、バラストタンクに触手が」
カーズは海風を捕まえて離さず、そのまま沈むが、なぜか攻撃もしてこない
「カーズも大分弱っているのか……」
海風の一部に浸水が始まった。
「左舷後方のバラストタンクに浸水! 」
美香は深刻な表情で思案している
「海風の耐圧深度は千mが限界、ここの水深は六千m。このままだと圧壊する……」
さすがの美香にも打つ手がなくなった。
「どうやら、ここまでのようね……こうなったら船員を助けなければ」
しかし、触手が絡みついてるカーズからの脱出は容易ではない。美香が思案していると、突然、海風の沈降がとまった。
「どうしたの! 」
「わかりません、カーズが沈むのをやめたようです」
そのとき艦の外壁から直接、女性の声が艦内に響くように聞こえてきた。明らかにマーメイドだ
『カンチョウだけをノコシテ、ゼンインをタイカンさせなさい』
マーメイドの意外な提案に、周囲は言葉がないが、美香だけは微笑んでいる。
「やはり、私だけが狙いのようね。カーズは獰猛だけど、マーメイドは話がわかる奴のようね」
美香は覚悟を決め、おもむろに立ち上がる。クルー達は、そのときの美香の苦悶の表情をみた。
「この命令だけは、二度と出したくなかった……」
美香は顔をあげ
「総員退艦! 」
美香は最後の命令をくだした。
今まで見たことがない、震えながら悔しさをにじませた美香の姿だった。いつも冷静で感情を出すことのない美香が初めて見せる姿だ。加藤やシルビアを含め、クルー全員に言葉がない。加藤はその言葉に、美香が負けることはない、と言った意味を理解した。
すると、クルーの中から
「私も、残ります!」
数人の声が上がったが、美香は
「なにを言うの! これからの若い者が、軽々しく言うことではありません」
厳しい口調で言うと、壮年の男性クルーの一人が
「でしたら、艦長は真っ先に退艦しないといけませんよ。艦長はこの船での最年少なのですから。実は艦長は私の娘と同じ歳なのです、親なら命に代えても子供を守ります」
さらに女性クルーも
「そうそう妹艦長を置いて行けないよね」
美香はうつむくと、小声で
「どうやら、事実を言わないといけないか……」
それを聞いたシルビアが、皆に振り向いて
「皆さん! 退艦しましょう。これは艦長の命令です」
なぜか、あっさり同意するシルビアに、美香は微笑んで頷いた。
退艦命令のあと兵士は脱出船のある格納庫に集合した。
次々と兵士が脱出するが、まだ大部分が残っている。指揮している加藤とシルビアは困り果て、美香の元にもどってきた。
「艦長に合わせろと、格納庫で兵士が騒いでます。艦長に会わないと自分達は退艦しないと言っていますが」
美香は、やれやれと言った表情で
「こんな私が艦長だなんて幻滅するぞ。それに加藤、ある意味命令違反だぞ」
「そうですな。しかし、みんなは処罰を受けても艦長に会いたいようです」
美香は、しかたなく席をたつと
「やむを得まい」
加藤とシルビアは微笑んで、
「では、こちらえ」
美香は加藤とシルビアの後ろをついていく、艦載機の格納庫の手前にくると中が騒がしい。まずは、加藤とシルビアが格納庫を見下ろせるデッキに立ち。兵士から
「加藤大佐、艦長は来てくださったのですか」
加藤は微笑んで頷くと
「聞いてくれ、艦長がきてくださった。劣勢だった太平洋艦隊を攻勢に転じさせ。ここまで、我々を勝利に導いてくださった、我らの誇るべき海風の艦長殿だ」
船員に歓声があがった。
続いて加藤が「艦長、どうぞ」と後ろを向くと、場が静まり返った。皆、初めて会う海風の艦長に緊張している。
壇上に立ったのは
つややかな黒髪をなびかせ、やさしくも真っ直ぐな瞳の美香が立つ。
船員は全員言葉を失った。
「……あれは。美香ちゃんじゃないか……あの娘が」
全員冗談だろうと思っていたが加藤大佐は真剣な表情で
「何をしている! 全員、艦長殿に敬礼!」
次々と兵士は敬礼する。
全員が敬礼すると。美香もゆっくりと返礼し、澄み切った声で
「退艦命令を出すような不甲斐ない艦長をゆるしてください。皆さん、ここまでよく戦ってくださいました、ありがとうございます。そして再度命令します。皆さん直ぐに退艦してください! 」
美香は深々と頭を下げた。その瞳に涙が浮いているのを加藤とシルビアはみていた。兵士達から
「必ずかえってきてください!」
「いつまでも、まってます」
全員、脱出船に乗ると水圧隔壁に向かっていく、艦長の見送りに多くの兵は涙を浮かべていた。
最後の潜水艇が出ると海風は沈み始めた。
ただ、それらの潜水艇の中に加藤とシルビアの姿はなかった。
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