4 作戦会議2
近藤と重松両艦長が、お互いの意見を譲らないのだ。
どちらも歴戦の猛者で信頼も高い代わりに、他の艦長連中では口出しができず、田口も、二人にとっては若輩者で決断をしかねていた。逡巡する田口に苛立つ重松大佐は
「田口提督、ご判断をお願いします。今回のカーズの猛襲を抑えなければ、日本の本土が大きな被害を受け、日本の三分の一が壊滅的打撃をうける試算もある。なんとしても阻止しなければなりません」
田口は、知らずに冷や汗がでている。どちらかの意見を支持すれば、支持されなかった艦長がへそを曲げるのではないかと思っている。ハンカチで汗をぬぐうと泰蔵の方をみて
「浅波大臣はどう、思われますか」
急に振られた泰蔵は驚いた、今回の作戦の総指揮官は田口中将だ、自分で決めるべきなのだ。まして、泰蔵は政治家で戦闘の知識は乏しい。
「私は政治家です。作戦については専門家の意見に任せましょう」
泰蔵は少し美香の方を見ると。美香も(それで、いい)と言った感じで小さく頷いた。
田口は再び返えされ、息を飲んだ。宮部中将であれば明快に判断し、皆もすぐに納得するだろうが、田口の鈍さに、他の艦長達はあきらかに不信感を持っている。
田口は考えた……それは勝つことではなく、二人のうるさい猛者を納得させる方法だった。
「それでは、近藤大佐の潜水艦部隊は硫黄島で先制攻撃し、カーズの群れに打撃を与えたあと、重松大佐の部隊が父島沖で迎え撃って殲滅してもらいましょう」
田口は両者に花をもたせる妙案と思った。近藤と重松は顔を見合わせて、しばらく考えた後
「わかりました、近藤さん負けませんよ」
「ああ、お互い頑張りましょう」
二人は、納得したような雰囲気で着席し、田口は両提督を納得させた自分の見事な采配を誇るように周囲を見渡した。特に、何度も美香の方を自慢げに見つめている。
ただ、美香は唖然とした。
敵のカーズは大軍、それに比べ艦隊は決して十分な戦力とは言えない。大軍に対し、劣性の部隊を分けるのは、秘策のない限り例えようのない愚策で、少数部隊になった艦隊は容易に各個撃破されるだろう。とにかく、内部を丸く収めて責任逃れする、保身的な発想としか思えない。
それまで、美香は新任でもあるため意見を差し控えていたが、さすがに進言しようと思い、立ち上がろうとしたが、横の泰蔵に止められた。
◇
そのまま会議は終わると、退出したロビーで、美香は泰蔵に食って掛かるように
「なぜ、止めた! 」
憤る美香に、泰蔵は後退りながら
「あそこで、新任で少女の美香が意見しても誰も受け付けないだろう。それどころか、他の艦長連中、特に田口の反感を買うだろう。ここで浅波准将を失いたくないのだ」
すまなそうに答える
「まさか、私が可愛いから、ということではあるまいな。後方支援の私や田口は大丈夫だろうが、このままでは、近藤も重松も生きて帰ってこられないぞ。まさか奴は、それが目的ではないだろうな」
「美香は知らないだろうが、先にも言ったように奴の周りは不穏だ。さすがに宮部中将のいた頃はおとなしかったが、どうも野心をいだいていたようだ。偶然と思いたいのだが、逆らった者は全て戦場に散っている。油断ならない相手だ」
「そんな奴なら、お前の力で降格させろ! 」
無茶なことと思いながらも、気の立った美香は睨むように泰蔵を見つめて言い放つ。まだ、あどけなさの残る少女が貫録ある大臣に意見し、しどろもどろになっている大臣の姿は異様だった。
「できればそうしたい。しかし田口は軍閥の家系で、その影響もあり艦隊の中で力も強くなってきた。政治で抑えきれないところまできている。宮部が生きていれば、そういうことはなかったが、この先、美香の存在は大きいものになるだろう」
美香は言葉につまると声を絞るように
「……私は、泰蔵の切り札というわけか、敵はカーズだけではないのだな。すまん、言いすぎた。私も上に立つ者の辛さは、解っているつもりだ」
「いや、私の力不足だ。ただ、私の切り札ではない、日本の切り札だ」
美香は眼を伏せ、(わかった)と頷いて、短いスカートひらめかせて泰蔵に背を向けると、何も言わずロビーを後にした。
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