4 父島偵察(沖田救出)3

 父島のオベリスクの位置と、ミドルカーズが一体だけだったことを確認した美香は、海風単独で父島のオベリスクの破壊を行うことにした。


 美香は艦長席に戻り指令室全体を見下ろすと、

「敵の数は」

「ミドルカーズが一体に間違いありません、あとは小型カーズです」


「大丈夫ね、これなら海風だけでやれるでしょう。父島までの距離は」

「二十キロです」


「わかりました。十分後に霧の中で一度浮上してガネットフェンサーを発進させ、島の裏側に回り込ませます。近づくとセーレンの声に翻弄されるので、塔から五キロ以内には近づかないようにしてミサイル攻撃を行ってください。海風はこのままオベリスクが視認できる位置まで接近して、時間を合わせてガネットフェンサーによる爆撃と海風による両面からの同時定点攻撃を行います」


 指令室に作戦を徹底させると、海風は父島の霧の中でわずかな時間浮上し、ガネットの攻撃部隊を発艦させた。その後、海風は再び潜航し、浅い潜望鏡深度で進む。


 しばらくするとシルビアが

「攻撃二十分前です」

「わかりました攻撃直前に浮上して、一斉射撃します。他の小型カーズの動きに注意してください」


 静かに話す美香の落ち着いた態度は、緊張する指令室のクルー達を安心させる。


「安心するね美香艦長って、歳下とは思えない」

「ほんとう、歴戦の提督って貫禄だよね。私も最近あこがれてるの」

 女性クルーが小声で話していると、突然、海風に異変が起きた。


「何か、聞こえない」

「そう言えば…」

 それは、鑑全体に共鳴している。


 その音は、次第にはっきりと聞こえてきた、女性の歌声のように聞こえる。美香は青ざめて

「この唄! みんな、聞いてはだめ! 」


 シルビアも驚いて

「なんですか」

「セーレンの歌声。まさか、まだ五キロ以上離れているのに。とにかく耳を塞いで!」

 美香は、周りに伝えるが


「だめです、耳を塞いでも聞こえます……って……なにか…体の力が抜けて…眠く…」

 周囲のメンバーは催眠術にかかったように虚ろになっていく。美香は一人耐えているが。


「みんなダメ! 」

 美香自身も体の力が抜けている。周囲のクルーは、ほとんど動けない

「まずい! このままだと…それにガネット隊は」


 美香も意識がとびそうになる中、椅子の後ろから拳銃を取り出す。そのあとクルーたちは艦長席から一発の銃声を聞いた。


 美香は自分の足に、拳銃を発砲したのだ。

「ああーー! 」

 美香は悲鳴をあげたが、なんとか意識を取り戻した。

 美香の悲鳴と銃声に周りのクルーも目をさましたが体は動かない。美香は足の激痛に耐えながら、艦長席にあるパネルの操作を始めた。


「う…海風全システムを、艦長席に強制集中……パスワード、指紋、声紋、静脈認識…」


 美香は声を出しながら操作する。激痛と朦朧とする意識に、しびれる体で、動きはかなり鈍っている。


「かん…ちょう…」

 体の動かないクルーは、一人奮戦している美香を見るしかない。女性クルーは涙をうかべている。


『全システム、艦長席にリロードされました』


 システム音声がすると。体を支えながらパネルを操作する

「…きゅ…急速浮上」

 美香は震える手でレバーを倒し、海風は浮上を開始した。


「深度五十m…三十m…二十…十」

 海風は海面に飛び出すように浮上し、艦が大きく揺れる。目の前のモニターには霧にかすむ中、高さ百m程度の白色の網状のオベリスクの塔が映し出された。美香は睨むように。


「不気味な…」


 オベリスクの下の海面から一体のミドルカーズが迫ってくる。美香は、パルスキャノンのトリガーに手をかけると、照準を、迫るカーズに合わせた


「倒れろ……」

 海風の全砲門からパルスキャノンが発射されるが、一人での操作のため、ほとんどが外れるが、カーズの動きは次第に鈍くなる


「……とにかく、オベリスクを破壊しないと…やられる…一人だと各砲門の狙いが定められない。目くら撃ちになるが、全巡航ミサイル……パルスキャノン……斉射!」

 美香は意識が朦朧とする中、オベリスクに照準を変更し、発射ボタンを押した。


 海風から多数のミサイルとパルスキャノンが乱射される。まるで、花火大会のクライマックのような激しい一斉射撃で、相当数は外れたものの、命中したもので、轟音とともにオベリスクは黒煙に包まれながら瓦壊し始める。


 それとともに、あの歌声が消え、ミドルカーズも動きを止めた。


「さすが海風の火力は半端じゃないわね……もう大丈夫、あとは、たのみます……」

 美香はつぶやくように言うと、その場に倒れた。


 クルー達は体が動くようになり、美香のもとにかけよってくると。艦長席のまわりは血だらけになっている。

「早く医務室に! 」


 男性クルーが美香を抱えて医務室に走った。加藤も起き上がると

「また艦長に救われた……我々は、艦長がいないと何もできないのか……」


 声を震わせ、他のクルーも俯いて言葉がない。

 その後、統制を失ったカーズは、バラバラな動きになり、ガネット隊と海風でミドルカーズを始め、父島のカーズを殲滅した。


 海風はゆっくりと帰還の途についていた。


 シルビアが医務室に美香の様子を見に来ると、すでに美香は起き上がっていた。すると、美香は、鬱々とした様子で


「やつら、小型の浮遊カーズをすべてガネット隊に向け、海風にはミドルカーズとあのセーレンの声で対抗したようね、戦力の分散がうまい。たしかに、沖田の報告のオベリスクにいた少女が人魚なら移動することも考えられる……迂闊だった」

 自分の失態だと言わんばかりに、悔しそうに話した。


「おっしゃるとおり、セーレンの声は最初オベリスク側から発信されていたのですが、次第に近づいて、海風のすぐ横から発信されていました」

「船外モニターとかに何か写っていない」

「いえ…なにも」


「とにかく、今回の情報をカーズ研究室に送っておいて。セーレンの声も録音してますよね、これは貴重な情報です。これで声の波長を打ち消す対策もできるでしょう」

 すると、美香はふと思い出したように。


「そういえば、シルビア少佐は以前、カーズ研究室にいたのでしたね」

「はい…でも、あそこは、何をしているのか……」

 シルビアはなにか思うところがあるようだが、話題をかえ


「そういえば。沖田君を救出したあと艦長は、何か怒っていましたね」

「ああ、あれは沖田が私の胸を触ったのだ。それで蹴飛ばしてやったよ」

 シルビアは、少しひきつったように笑い。


「ほんと、沖田君、艦長の正体を知ったらどう思うでしょうかね」

 美香は、シルビアが、なぜ急に沖田の話をするのかと訝り


「シルビア、ひょっとして……」

 美香は、にやけながらシルビアを見つめると、シルビアはあせった表情で


「なっ! なんですか。べつに……何とも思っていませんよ! 沖田君のことなんなんか、なんとも」


「私は、何も言っておらんが」

 美香が笑うと、シルビアは真っ赤になって、医務室を出て行った。

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