2 転生3

 初登校は専用の車で、京蘭女学院の校門の前につくと、生徒達が美香の登校に集まってきた。


 車で登校などと、美香は言うが。どうも、浅波財閥の一人娘の御令嬢ということで、要人扱いらしく、しばらくは車での送り迎えということらしい。校門につくと、周りの生徒達に注目されながら車を降り。


(しばらくは、このジャリタレどもといっしょか)

 美香はため息をつくと、生徒の中から数人駆けよってきた。


「美香様、おひさしぶりです!」

 美香…様…友達に様つけとはと思ったが。

「お鞄をおもちします」

「さあ。こちらへ」


 まるで、使用人のような友達の態度に(こいつらはなんだ。敬語などつかって、まるでメイドではないか)と、思ったが、とりあえず成り行きにまかせていると、娘の一人が聞きにくそうに


「あのー…美香様の記憶が一部、途切れていると聞いていましたので、私達が御案内します」

 美香は微笑んで

「ありがとう」


 すると、周囲は「えっ!」といった表情だった。美香は「ありがとう」と言っただけだ。三人娘は、美香を靴箱につれて行き教室を案内した。教室に入ると、なぜか静まりかえり、重苦しい緊張感が漂っている。


(雰囲気が暗いな。若い生徒ならもっと元気があってもよさそうだが)

 美香は周囲を見渡すと、おどおどしている娘や、目があうと急に下を向く娘もいる。


(うーむ、女子校はこんなものなのか。それに、私を恐れているような感じがする)

 しかし、美香をつれてきた三人の娘はちがった。


「なにしてるの! 美香様が登校されたのよ、どきなさいよ、とおれないじゃない」


 言われた女生徒は慌ててよけると、美香は案内された席に座った。まさに、お姫様というか、女帝のようだ。すると三人娘は教室の隅で座っている小柄な娘を見て、

「あら、咲が来ているわ」


 咲は目を合わさないように俯いて、どこか震えているようにも見える。美香は

「咲さんて……」


「美香様、おもらし咲も覚えていないのですか、ほら、汚くて、臭くて、ちびで、家が貧乏なくせに、この学校に通っているのですよ。ほら、靴や服も繕いだらけでボロボロだし、同じ京蘭の生徒としてはずかしでしょ。せっかく美香様が学校に来られなくしていたのに、お休みされていた間、ずうずうしく登校していたのですよ」


「そうそう、なんて、意地汚いのでしょう」

 三人娘は口ぐちに咲と言う娘を罵っている。


 美香はしばらく聞いていたが、うんざりした表情で立ち上がると、咲のそばに寄って行った。


 周囲は知らぬふりをし、小柄な咲はおびえたようにして下を向いている。美香は咲の横に立つと屈んで咲の頬の近くで、クンクンと匂いをかぐようなまねをした。三人娘はその様子を見ながら

「美香様の、咲いじめが始まるわ」

「やっぱり美香様だ、どんな罵声がでるのかしら」

「着替えの服がないとか、おもらししてるとか」


 三人娘はささやきあい、周囲も知らぬふりをしている。大富豪のご令嬢で学長さえも頭があがらない美香に、だれも口出しはできないようで、実際に学校を追い出された生徒もいたらしい。美香は顔をあげ


「フローラル……少しレモンの香りもする。いい香りね、私好きよ」

 そのあと、微笑んで咲をみた。


 思わぬ美香の言葉に周囲は驚いた、もっとも咲が一番驚いている。美香は続けて

「今まで、私があなたをいじめていたなら、ごめんなさい。これからは絶対にしませんから、仲良くしてください」

 真剣な表情で言うと、咲の前で深々と頭をさげた。


 咲は口に両手をあてて驚いている

「み…みか…様…頭をあげて…ください…」

 咲が小さな声で言うと、美香は顔をあげて微笑み。


「様つけはやめて、同級生だから「みか」って呼んでね。それに、あなたに高い学力を身につけてもらおうと、この学校に通わせるため、繕いものまでして節約し、がんばっておられるご両親は立派だと思います」


 美香の毅然とした中にも優しさのある言葉に咲は言葉が出ない、周囲も美香の変わりように呆然としている。


 美香は微笑んで振り返ると三人娘のそばにきた。美香のあまりの変貌に三人娘も驚いている

「あなたたちも、これから私を呼ぶ時、様つけは禁止。友達なのだから、ミカってよんでね」


 首をかしげてやさしく微笑む美香に、三人娘は目をまるくして

「はい…美香さ…みか」

 美香は再び微笑んで頷いた。


 財閥で大富豪の地位を利用して好き放題していたらしいが、今の美香は性格だけでなく、勉強も運動もずば抜けている。そんな美香に周囲の生徒達は驚くとともに、羨望するようになった。

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