2 転生2
数日後、美香は退院して家に戻ることになった。
運転手付のリムジンカーに乗り、着いた家は豪邸で、唖然としながら車から降りると、迎えに使用人が大勢集まっている。使用人はみな笑顔を見せているが、どこか緊張し、ぎこちない。
(なんたる豪邸のお嬢様だ。しかし、この使用人たちは少しおびえた目をしているな)
美香はそんなことを考えながら、玄関に入ると若い娘の使用人が恐る恐る美香の鞄を持とうとしたが、震える手のため鞄を落とした。
周りの使用人達は真っ青になり、落とした娘は土下座で
「すみません! すみません! 」
やりすぎと思えるほど、何度も平謝りする。
「どうしたのです、そんなに謝ることはないでしょ。さあ、立ってください」
「ええ……」
周囲は美香の態度に驚き、謝った娘も顔をあげて呆然としている。美香が手を取って娘が立ちあがると、ひれ伏したため膝に砂が付いていた。
「砂がついてますよ」
美香は屈んで娘の膝の砂をはらってやると
「そ…そんな!…」
娘はなぜか震えている、周りも驚いた眼で美香をみている。美香は周囲を見渡して
「どうしたのですか、みなさん」
すると中の一人が恐る恐る
「お…お嬢様…そのー、記憶がないというのは本当ですか」
美香はすまなそうに微笑むと
「ええ、そのとおりです。事故のときから一部の記憶がないのです。こんな私で申し訳ありません、わからないことだらけです。どうかいろいろ教えてください」
美香が頭を下げると周囲は戸惑ったように
「そんな!…お嬢様が頭を下げるなんて」
どうやら美香という娘、相当の我儘娘だったことが容易に想像される、使用人たちは苦労していたようだ。美香は使用人を見渡し
(見ればまだ年端のいかない少年少女もいる、カーズの侵略が始まってから、難民や孤児も増えたときく。恐らく、ここで引き取っているのだろう、苦労しているようだな)
そのまま、大きな玄関に入ると、正面の壁に恰幅のよい老人の大きな肖像画が目に入った。美香は思わず
「浅波泰蔵!」
すると、周りの者は
「お爺様の名前は覚えていらっしゃるのですね。印象の強いお方ですから」
どうも以前の美香は、祖父で大臣でもある泰蔵だけには頭が上がらないようだった。
(美香さんは、泰蔵の孫だったのか……確か、行き場のない子供たちを屋敷の手伝いとして預かっていると言っていたな。奴になら相談に乗ってもらえそうだ)。
美香はひとり頷いた。
◇
「ここが…私の部屋」
美香は自分の部屋に通され唖然としている。
大きな部屋に天蓋付きのベッド、机やタンスも豪華なものだ。使用人がクロゼットをあけると無数の服が吊り下げてあり、どれも高価そうだ。化粧台には高校生には過ぎた宝石も多数あり、目まいがしそうだ
「これが、わたしの……」
「そうですよ」
使用人が言うと
「カーズの災厄で、貧困している者も多いのに……ところで、高校生だから教科書や参考書とかは」
使用人は意外だ、と言った表情で
「あのー…雑誌ならそこの書棚に」
美香があけてみると。ファッション、映画俳優やアイドルの雑誌類が目に入り、隅の方に教科書らしきものが若干ある。美香は力が抜け肩をおとした。
◇
その後、周囲は美香の変わりように、驚くことになる。
以前の美香は相当に使用人をいたぶっていたようで、特に若い娘はいじめの状態だった。カーズに殲滅された村などから引き取られた難民や、孤児の子ども達も多く、耐えきれず逃げ出す子もいたが、他に行くところもなく結局引き戻されていた。
そんな美香だったが、戻ってくるとまさしく別人で、率先して使用人の手伝いを行い、身寄りがなく屋敷で働いて塾に行けない小、中学生の子供には学校のあと勉強も教えてやった。
少し戸惑っているのは両親との接し方だった。
夕食は広い豪華な部屋に両親と三人の食事で貴族の食卓のように周りに使用人が控えている。ただ、両親の態度はなぜか落ち着きがなく、ほとんど黙って食事をしていた。
(自分の娘なのに、まるで、お通夜だな)美香はそう思いながら、何か話題をと思い
「お父さん、お母さん、私、来週から学校に行くのですよね」
「そ…そうね、元気になった姿を友達に見せてあげて」
美香は頷いたが、両親の態度はあきらかに我が子にも関わらず気を使っているようで、ほとんど会話がない。周囲の使用人も美香に気を使っている、と言うか恐れているようにさえ見える。食事が済むと、両親はさっさと部屋に戻った。
美香は自室に戻る途中、使用人に両親について聞いてみたが、特に何もないと言って、はぐらかすだけだった。
「両親との間で何かあったのか……」
美香は思ったが親子のいざこざなど、めずらしいことでもない。いずれわかることと思いシャワーを浴びに行った。
女性の体にもなかなか慣れず、相変わらず裸になると違和感がある。
(若い男なら飛びつきたくなるような体だ。しかし、この歳でこんなものを付けるとは想像もしなかった)脱衣所で、慣れない手つきで下着を身に着けた。
その数日後、かつての宮部にとっては数十年ぶりに学校に登校することになった。
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