1 深海の死闘(田口の決断)
そのころ、作戦を終えた沖田達は予定通り浮上し、海風が戻ってくるのを待っていた。洋上は太平洋高気圧の下、青い空がまぶしかった。うねりある海上に浮かんでいる沖田に、他のパイロットが
「やりましたね、ほぼ全滅です。先ほどガラパゴス、マーシャル諸島、ニュージーランド沖、なども、圧勝で攻略したそうですよ。早く海風で一杯やりたいですね」
沖田の返事は意外にも
「……おかしくないか」
「おかしいですか。浅波艦長の言うとおり滞りなく任務完了したではないですか」
「だから、おかしいのだ。出撃の時、艦長はなんて言っていた」
「……激戦になるから、無理するな……って! 」
さすがに周囲の兵も気づいた
「そう、俺達は激戦といえたのか? 奴ら、俺たちが陽動だと知っていたのでは。それに他の地域が圧勝ということは敵の主力はそこにはいなかった。つまり、どこか他の場所に集結している可能性がある……ひょっとしてここに集中した可能性は……」
「付近にカーズの気配はなかったですよ」
そのとき、ソナーで海中の状況を確認していたパイロットが
「……これは! 海中に多数のカーズが」続けて震える声で「ビッグカーズが……約二十」
「二十だと! しかもビッグカーズ、何かの間違いでは」
沖田は蒼白になった。
「ここに集結していたのか……まさか、海風を狙って」
沖田は美香の顔が浮かんだ(カーズはあの娘をそこまで恐れているのか……あの艦長には俺など足元にも及ばない)沖田は納得するように苦笑いすると。
「すぐに救援にいく! 一度、空母に戻って弾薬を補充する! 全速で飛べば一時間で戻れる、イメージェンシーコールして弾薬補給を要請しろ」
沖田達はすぐに海上を滑走離陸し水平線の彼方に全速力で飛翔した。
◇
後方にいる田口に、海風の潜水艦隊が交戦に入った旨が報告がされてきた。田口は飲みなれないコーヒーに大量の砂糖を入れながら、余裕の表情で聞いていた。
「我々も早く向かうぞ。恐らく海風は苦戦しているだろう、助けにいくのだ」
田口は美香を救出して勝利したあと、羨望の眼差しで自分を見る美香を想像している。以前、海風が重松や近藤を救って絶大な信頼を得たことをまねているのだ。
そんな信濃に沖田の部隊が向かってきた
「沖田隊です、緊急通信で本艦に着艦要請していますが」
田口は訝った
「なぜ、ここに戻ってくるのだ。海風に戻るのではないのか」
そのあと、沖田から驚くべき状況が田口に伝えられた
「……ビッグカーズが二十体だと! 何かの間違いでは」
田口は耳を疑った。何かの冗談かと思ったが沖田隊の索敵記録が送られると、間違いない事実だった。
「太平洋の全ビッグカーズが集まったのか……」
田口のコーヒーをもつ手が震えている。
自分が招いた結果とも言える。まさかカーズがそのような作戦に出るとは考えてもみなかった。
「よりによって、なぜこの艦隊を狙ったのだ……まさか海風なのか…」
他の艦船で大きな戦果を上げている者はなく、海風は目立ちすぎている。横の副官は
「どうします。これほどまでのビッグカーズが集まるなど、前代未聞です。とても勝ち目はありません。この艦隊だけでは、間違いなく全滅します」
田口は震えがとまらない。海風が危なくなったところを助けようと、白馬の王子様を気取るどころか、このまま進むと艦隊が全滅の危機で、無論自らも危険だ。
真っ青になって冷や汗がでている。
「どうします」
副長の言葉に田口はしばらく考えたあと。苦悶の表情で
「……全艦船、戦域より離脱。作戦は中止だ」
副長は言葉がなかった。しかし、このまま戦っても大敗するのは明らかだ。
「先行した潜水艦隊はどうされますか」
「……言わせる気か」
睨むように田口は副官に言う。
潜水艦隊は見捨てざるを得ない。副官はそれ以上聞けず
「了解しました、全艦隊、離脱せよ」
◇
光のない海中で、美香はこれまでにない表情で思案していた。
そんな美香に加藤は
「多地点のオベリスクを犠牲にして二十体ものビッグカーズがここに集結し、自らを犠牲にしてまで、この潜水艦隊をひきつけた。さらに過去には宮部中将が襲われた……といことは、この海風をだけ狙っているのでは」
さらにシルビアが続けて
「海風というより艦長を狙ったのではないでしょうか。宮部中将をなんとか暗殺したあと、今の艦長がだれかわからない、そこでカーズは多大な犠牲をはらっても、この海風ごと倒そうとした」
美香は眼を閉じて頷いた。すまなそうに消沈する美香を見た加藤は、慌てて
「か…艦長! もし、そうだとしても、気にすることはありませんぞ。たとえだれが艦長でも同じことです。それに、艦長をお呼びしたのは私達です。とにかくこの危機をのりこえましょう」
美香は加藤の気遣いに、微笑むと
「すこし、ゆさぶってみましょうか。他の潜水艦はそのまま待機、本艦は反転して海山から逃げるようにみせかけます。おそらくカーズは本艦を追ってくるでしょう。その間に他の潜水艦は手薄の箇所を集中して突破し、脱出するように伝えてください」
「海風が囮というわけですか。しかし、追ってこなかったら」
「その可能性は低いと思います。とにかく、これで相手の意図がわかるでしょう」
加藤は、美香が苦肉の策を言っていることがわかる。加藤は力なく
「了解しました」
美香は頷くと、顔を上げ。
「とにかく逃げ切るのです! 」
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