10.久しぶりの屋上♡
「じゃ、またねー!」
「おー」
「ふふ。……
「はーい!
日も暮れて来た頃、やっと作業が一段落した俺達は、各々帰りの支度を始める。
この調子なら……明日にでも終わりそうだな。
「……」
そんな事を思っていれば、中野の去った図書室の中で……瞬間的ではあるだろうけれど、麻結さんと二人きりになる。
今まではなるべくしてなっていた二人きりだったし、最近は三人以上だったから……突如として現れた二人きりという現状に、ちょっと緊張してきてしまう。
「……よし!」
その一方、麻結さんはそんな風に声を上げて、自分のノートなんかを纏めて机でトンと一回揃えてから、前に抱えてすっかり扉の方に歩いて行ってしまった。
……まぁ、そうか。
麻結さんも忙しいし、今日だって散々一緒に居たんだし……。
「下川くん?」
「!……はい」
俺がいじけているのを察されてしまったのだろうか、麻結さんは扉を開けた所で振り返って、俺の事を呼んでくる。
俺がそれにワンテンポ遅れて返事をすると、麻結さんは当たり前の様に言ってのけた。
「私、これ置いてきちゃうから……先に屋上、行っててくれる?」
****
もうすっかり全部沈んでしまいそうな、夕日の眩しい屋上。
こんな時間に屋上へ行くのなんて無かったから、何だか新鮮だった。
「お待たせー」
そんな中待っていると、やっぱり麻結さんは変わらずな様子で屋上に現れた。
「……良いんですか? こんな時間に」
「んー……逆にこの時間の方が、私は都合つきやすいかな」
「えっ……」
それならそうと言ってくれれば、今までの分だって都合つく時間まで待ったのに……なんて言いそうになるのを飲み込んで、俺は話題を変えて麻結さんに話し掛ける。
「……でも、久しぶりですね。こうやって二人、屋上で会うなんて……」
「ふふ、そうだね。……最近は特に忙しかったからね」
「……」
……この流れで、聞いてしまおうか。
まぁ……不自然じゃないよな、こう返すのが定型な所もあるし……。
「麻結さん……最近、疲れてませんか?」
何だか怪しい感じにもなってしまったけど仕方ない。
きっと察しのいい麻結さんなら、『忙しい』って話の流れからそう聞いたんだって分かってくれるだろう。
「疲れてる、かぁ……」
そう信じて返答を待つと、麻結さんは腕を軽く組んでしばらく考えてから、俺の方に笑顔を向けたまま答えた。
「実は……最近は疲れてるというか、逆に元気なのかもって思ってるんだよね」
「……えっ?」
「大丈夫だよ」くらいは返って来るかもなって想像は出来たけど、逆に元気とまで言われるとは思わなくて、俺は思わず重ねる様に声を上げてしまう。
「ふふっ。忙しいには忙しいんだけど、最近ある事にハマってて、それが楽しいんだ」
「そう、なんですか……」
趣味……って事なんだろうか。
麻結さんが何かにハマるなんていまいち想像出来なくて、ちょっとモヤモヤしてしまう。
けれど……まぁ、趣味があってそれが解消になってるのなら、いい事なのかな。
「……」
この後続けるとしたらきっとその趣味についてだし、俺自身もその趣味が何なのか気になって仕方が無かったけど、何故か俺は聞く事が出来なかった。
……昔から、悪い勘だけはよく当たって。
それと同じ感じが、確かに今したんだ。
「……下川くん」
俺がそんな幼い頃からの経験則に、半ば反射的に押し黙ってしまっていると、麻結さんはそんな風に俺の名前を呼ぶ。
顔を上げると、すっかり日の沈んでしまった暗い空と、それをバックに映る麻結さんの姿があった。
「見て、下川くん」
麻結さんはそんなすっかり暗くなった世界でも、未だはっきり見えるいつもの笑顔のまま……そのまま、確かにそう言葉を続けた。
「こんな曇りの夜……何か起こるには、絶好の夜だね♡」
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