34.皆で夏祭りへ♡

「ど、どうかな……?」


 一時間後と約束して、俺と真吾はすぐ終わったけど……女子二人は色々準備が居るみたいで、少しばかり遅れて一緒にやって来た二人は、同じ柄の色違いの浴衣を着て、長い髪を器用に纏めていた。


 確かにこれを一時間ちょっとでやるのは至難の技だな……なんて関心していると、名高なだかがそんな風に聞いてきた。


 どうって、凄いとは思うけど……あっ。


「……似合ってるよ」


 これだけ時間をかけて似合っていなかったらと思うと不安だろうしと言ってみると、


「えへへ……♡」


 と、嬉しそうにしていたので、多分正解だったんだろう。


「……上城かみしろも」

「えっ……あ、当たり前でしょっ!」


 名高だけに言うのもアレだったので、今度は上城の方を向いてそう言うと、不意打ちだったのか動揺しつつもいつもの素直じゃないムーブを発動していたので安心する。


「にいちゃん、おれはー?」

「お前はいつも通りだろ?……似合ってるよ」

「あははっ! わーい!!」


 流れに乗っかってそんな風に聞いてくる可愛い奴の頭を撫でながらそう言うと、真吾は楽しそうにはしゃぐ。


 そういえば……夏祭りは去年神社の改装とかでやらなかったし、その前は俺が受験だったから連れてってやる時間も無くて、真吾にとっては二年ぶり……になるのか。


 小学四年生にとっての二年ぶりなんて……小学二年生なんだから、だいぶ幼い頃って事になる。


 下手したら今年も、俺がダウンしたまま連れて行けなかったかもしれなかったのを考えると……二人には感謝しかないな。


「ん……どうした?」

「えっ……あー、あれ……」

「……綿あめ? 欲しいのか?」

「いや、何かなーって思っただけ!……綿あめって言うんだぁー」

「……」


 そうか……綿あめ、知らないのか。


 否定はしたものの、きっと遠慮からなんだろうし……ほんとは気になるハズだ。


 小さい頃綿あめさえ食べたくても食べられなかったなんて思い出を作って大きくなって欲しくは無いし……よし。


「あんまりにいちゃんを舐めるもんじゃないぞ。……百円くらいだろ、それくらい出せなくて何だってんだ」

「えっ……でも……」

「……食べてみたいなら、食べてみたいって言っても良いんだぜ」

「……」


 俺がそう言うと、真吾はちょっと考え込んでから、やがて遠慮がちに言った。


「ちょっと、食べてみたい……かも」


 真吾の優しい所は長所だとは思うけれど、やっぱり年相応に甘えたりわがまま言ったりさせてやりたいな……なんて考えつつも、その第一歩を引き出せた事に確かな進歩を感じながら、俺は「おう」と答え、綿あめの列の方に手を引いた。


「ボクも買おーっと」

「あっ……じゃあ、わたしも……」


 すると、その後ろにそんな風に言って二人が並ぶ。


 この際だし二人分買うかなーなんて思いながら、やっぱり祭りの屋台の列は格別なんだな……と感心しつつ待っていると、


「……は?」


 あと二、三人で俺達の番となった時、やっとと言うべきか、衝撃の事実に気づいてしまった。


「嘘だろ……綿あめ一つ四百円……?」


 ジャンボ綿あめとは書いてあるにしろ、流石に高すぎじゃ……と思っても、きっとこの行列にはそれを了承した上で並んでいる人が殆どなんだろうと考えると、やっぱり普通……なのか。


 ……でもそうか。

 四百円、か……。


 まぁ……綿あめを持ってる人を見て、俺の記憶にある綿あめよりは大きいなとは思ったけど……四百円……。


 祭りに来てまで貧乏臭くなるのはなるべく避けたかったけれど、流石に百円だと思ってたものが四倍……四百円だった時の絶望は計り知れないだろ……。


「はい、お兄ちゃん達どうぞー」


 ……そんな事を考えているうち、とうとう俺達の番になってしまった。


「綿あめ……一つ……」

「はい、四百円ねー」


 震える声で頼むと、見間違えという可能性を潰す店主さんの声に、もう意地で財布を漁っていると、


「はい、ボクからの百円ねー」

「わたしのも……」

「……え?」


 そう言って、二人から計二百円が手渡される。


 俺がびっくりして振り返ると、


「大きいんだし、四人で買ってシェアしよーって、名高ちゃんと話してたの。ねー?」

「はい……!」


 ……そこには、確かに二人の女神が居たんだ。

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