35.夏祭りと甘々な時間♡
「マジで……本当、助かった……」
「まぁ……ボクでもあれはちょっと高いかなーって思ったし、そんなに気にしなくても良いんじゃない?」
「ですです!……それにわたしも、甘いものたくさん食べたら太っちゃうし……ちょっとで良いかなって思ってたから」
……改めて、優しい友達の存在に感謝しつつ、綿あめを眺めながら食べるタイミングを伺ってる真吾に声を掛ける。
「……面白いから、一回かじってみな」
「う、うん……!」
真吾は大口を開けてかぶりつこうとしたものの、一旦止めて……多分皆で食べるって事を思い出したんだろう。
今度はちょっと控えめにちぎって、ひょいと口に入れた。
「ん!……ん?!」
見事なまでの反応に微笑ましくなっていると、真吾は興奮した様子で俺に向かって話してきた。
「にいちゃん、溶けたっ!……あのね、すぐ無くなっちゃったんだよ!!」
「あぁ。……それが綿あめだからな」
「へぇ……っ!!」
俺も初めて食べた時、こんな風に感動したのかなぁ……なんて思いを馳せていると、上城も名高も笑みをこぼしながら真吾の様子を見ていて、平和だな……なんて思ってしまう。
いや……実際、平和なのか。
しきが壊されて、俺がそれにダメージを受けたってだけで、俺の周りの世界が平和である事は変わってなかった。
そしてそんな世界は、俺をどうにか回復させようとしてくれているんだ。
……頑張らなくちゃな。
せめて夏が終わる……いや、夏休みが終わって二学期が始まるまでには、何事も無かった様にそこに居られる様にしたいな。
「……もっと食べて良いんだぜ?」
「えっ、あ……うん!」
考えを纏めてから、一口食べてそれっきりだった真吾にそう言うと、真吾はちょっと戸惑いつつもそう言って小さめにちぎって口に入れる。
……あぁ、そうか。
皆で食べるって言ったから、遠慮してるのか。
「じゃ……俺も、ちょっと貰おうかな」
「!……うんっ!」
そう考えて俺が言ってみると、真吾は威勢のいい返事と共に綿あめを持った両手をこっちに向かって伸ばしてきた。
俺はそこから、一口分ちぎって口に入れる。
「ん……甘いな」
「でしょー!」
俺の率直な感想にも、そんな風に自慢げに答えて笑う真吾に、やっぱりいつもよりテンションも高いしちゃんと楽しんでくれてるんだな……と安心しつつ、二人の方を向いて言う。
「上城も名高も。……甘いぞ、これ」
美味いぞ……なニュアンスでそう言うと、「何それ〜」と苦笑しながら上城が一口ちぎり、その後に「じゃあ……いただきます」と名高もちぎってそれぞれ口に入れる。
「ん、甘〜ぁ」
「んふふ……♡」
やっぱり……甘いものを囲んでる事もあって、和やかで良いな。
……そうだ。
今度お菓子作りも色々やってみようかな。
前パンケーキとかなら作ったけど、意外と好評だったし。
「ね、にいちゃん」
「ん?」
そんな事を考えていたら、真吾が俺を呼んだ。
目線を合わせてると、いつもまっすぐな視線を更に一点に注いで来たのでどうしたのかなと思っていると、真吾はにこっと笑って口を開いた。
「来年も……一緒に夏祭り、行ってくれる?」
あぁ……そうか。
……来年。
来年もあるんだな。
「……おう」
俺がそう答えると、真吾は心底嬉しそうに笑った。
そうか……来年には、三年生になるのか。
つまり俺の学生時代は……あと二年半ちょっとくらいになるって事か。
流石に中卒を雇ってくれる所は少ないからって高校には行っているけど、貯金の計算的にも俺が大学に行けるまでの金は無い訳だ。
少なくとも、俺がどんなに低賃金な所で働くってなった時でも……最悪俺が過労か何かで死んだとしても、それまでの貯金か保険かで大学までは行かせてあげられるように計算してるんだから、それを無視して特に学びたい事も無いのに無理に大学に行く事も無いんだし。
「来年も……来ような」
とにかく……目の前の事だけじゃないんだ。
……俺が、頑張らなきゃなんだから。
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