33.心配と別離♡

名高なだかちゃん、もうちょい右……そうそう!」

「ふぇ……こ、こっちですか……?」

「あははっ。……面白いね、にいちゃん」


 目隠しをした名高が少しずつ近づいてくる。


 そんな名高にノリノリで指示する上城かみしろと、たまに真吾しんごもそれに加わって、ワイワイガヤガヤしながらも確実に距離は縮まっていき……


「っ……!」


 ……重量感のある棒が目の前で振り下ろされるさまに、思わず過剰に反応してしまう。


 その後にまぁまぁな音量の、まぁまぁグロい打撃音が辺りに響き、その後に聞こえてくるのは、三人の声。


「わっ!……やるじゃん?」

「あはは、すごーい!」

「あの、もうコレ外して良いですか……?」


 楽しそうにはしゃぐ三人の前に広がるブルーシートの中心には、真っ二つと胸を張って言えるくらい、綺麗に割れたスイカがあった。



****



「……甘いな」


 シャクッと一口かじったら、自然とそんな感想が出てきた。


 今まで一切自分から声を発さなかった俺がこんなしょうもない事で呟いたからか、三人は手を止めてこっちに視線を送ってくる。


 が、それに返す言葉も態度も特に見つからなかったので、またもう一口スイカをかじる。


 何もしてなくても手に水分が流れて来るくらいみずみずしいのに、ちゃんとハッキリと甘さはあって美味かった。


 そのまま黙々と食べていたら、ふと隣に居た真吾が種をぷっと庭の端に向かって飛ばした。


「ん……どうしたの、にいちゃん」


 真吾がそういう……行儀の悪いと言うか、子供っぽい事をやるなんて珍しいから、どこで学んで来たんだろうと興味深く眺めていたら、流石にずっと視線を向けてくる兄を不思議に思ったのか、真吾はそんな風に話しかけてくる。


「いや……種、飛ばしてたから」


 それに俺が答えると、真吾だけじゃなくまた三人共俺を見てきて、そんな一挙一動に気を張らなくても……なんて思っていたら、


「? にいちゃんだって飛ばしてたじゃん」

「……え?」


 思い返せば……確かに種アリのスイカなのに、皿の上にも種の姿が無い。


 ……どうしてこんな行儀悪い事、無意識にやったんだろう。


「スイカ、久しぶりだけど……二人でこうやって外で食べた時は、にいちゃんが教えてくれたんだよ? こう飛ばすんだーって」

「えっ♡ しんちゃんにもそんな頃あったんだぁー!……あの、他にもしんちゃんの昔の話なんか……」

「!……ストップストップ! この話止め!」


 名高が真吾にそんな風に聞こうとし始めるのを、上城は慌てて止める。


「なっ……! 何でダメなんですか?!」

「……とにかくダメなの!」

「もしかして……上城さん、しんちゃんの秘密独り占めにしようとなんて……」

「違うの、これは本当に……!」

「ご馳走様」


 二人の話すのを遮る様にそんな風に言って立ち上がり、家の中に戻ろうと背を向けると、


「……にいちゃん」


 真吾が遠慮がちに俺の名前を呼んでくる。


「……。何だ?」


 それに答えると、真吾は俺の置いてったスイカを指差して不思議そうに言った。


「赤いところ、まだあるよ?……にいちゃん、こういうのちゃんと食べるでしょ?」

「あぁ……それはだな」


 確かに俺の性格じゃ食べるよな……と、何だか貧乏を通り越して貪欲なイメージが付いてそうなのを苦笑しつつ答える。


「カブトムシとか居るだろ、そういうのが食べるからわざと残すようにって、昔……」


 ……昔?


「……あれ」


 そこまでは自然に言葉が出てきたのに、そこから酷くつっかえて何も言葉が出てこないどころか……さっきまで話してた事さえどうしてどこから出てきたのか全く分からなくなって混乱する。


 カブトムシって何だよ、ここら辺には見かけないし、飼ってた事なんて……無い、だろ?


 悪い冷や汗が止まらなくなってだらだらと、下手な怪談話よりもよっぽど身体中を冷やし込んで居た時、


「しんちゃん!」


 ……それを阻止したのは、上城だった。


「な……夏祭り! 夏祭り行くから、早く準備して!!……皆もっ!!」


 上城の方も、心做しか焦ってる様に見えたけれど、俺はこれ以上考えてもどうにかなってしまいそうだったので、素直に夏祭りへ行く準備をする事にした。

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