32.死んでる様に生きる日々♡
「……にいちゃん!」
「ん、何だ? 慌てて……」
「お湯!……お湯、溢れてる……」
「あぁ……悪いな」
俺はひとまず火を弱め、後は溢れたお湯を拭かなきゃな……とタオルを探しに一旦その場を離れる。
最近夏バテっぽい症状もちょっとあるからか、外出する元気が中々出なくて魚とかの新鮮さが重要になってくる料理は中々出してあげられなくて……申し訳ないな。
まぁ……だからって、
だって真吾はまだ小学四年生なんだから、流石に一人で買い物ってのは早いだろうし……登校だって俺が高校生でないなら多分着いて行ってしまうと思うレベルなのに。
「……」
あ……タオルちょっと古くなってきてるかもな。
やっぱりそろそろ家にある物……古くなってるのもあるし、買い替えなきゃいけないのも増えてきてしまうんだろうか。
家電の寿命も十年とか言うし……流石に連続して壊れ出したらシャレにならないし、ガタが来てるものからちょっとずつ替えて……
「……にいちゃんっ!!」
「ん……どうした?」
「どうしたじゃないよ……。料理途中でしょ? ずっとそんな所で、何やってるの……?」
あぁ……そうだった。
沸騰させて溢れちゃったのを拭く為のタオル、取りに来てたんだっけか。
「……悪い悪い」
今度はちゃんとタオルを一つ持って戻り、片手で手鍋を持ち上げてサッと拭き取る。
そしてから、やっと手鍋の中で伸び伸びになっているそうめんの存在に気づく。
「あー……そういえば、もう入れてたんだっけ」
どうしよう。
ちょっと多いけど……これは俺の分にして、真吾の分をまた茹でるか。
でも……この調子じゃ、また失敗しそうな気もするし。
……あぁ、タイマーかけとけばいいのか。
「にいちゃんってば!」
「……ん?」
「タイマー鳴ってる!……にいちゃんおれに教えてって頼んだでしょ、忘れたの?」
「あぁー……」
いつの間にか鳴ってたらしい。
タイマーの音にも気づけないのか……重症だな。
そんな風には冷静に考えられるのに、目の前の現実をちゃんと見ようとしたって、遠すぎて……どうしても、ちゃんと認識出来ないんだ。
「……あ、ザル」
危うくさっき茹でた伸び伸びの麺が入ったのと同じザルに入れそうになってしまって、ギリギリの所で踏みとどまって傾けてたのを元に戻してザルを探す。
いつもこういう系は一気に茹でて一つのザルに入れてるから、ちゃんとあったかなーなんて思いつつ棚を漁ると、奥の方に小さめのザルを見つけた。
「よっ……と」
それを取り出して洗剤で洗い……一瞬伸び伸びの方の麺に洗剤のついた水を飛ばしそうになったけど、何とか気づいてどけてから洗い、綺麗に流してからやっとこさ麺を上げてみれば、
「……あっ」
せっかくタイマーもかけて真吾にも声を掛けて貰ったのに、すっかり前に上げたのと同じ位まで伸びてしまっていた。
「悪い、もう一回……」
「……いいよ。おれ、別に伸びてても気になんないもん」
「……」
そんな事を話してボーッとしているうちに、真吾は二つ分ザルといつの間にか作ってあった麺つゆを、すっかりテーブルの方へ運んで行っていた。
「あー……なにか乗せるか?」
「いいって。にいちゃんもっと時間かかって伸びちゃうでしょ?」
「そうだな……悪い」
「……だから、食べよう?」
「……あぁ」
俺達はテーブルに座って、向かい合ってそうめんを無言ですする。
……そのまま静かに時が過ぎると信じて止まなかった時、
「しんちゃん!……仕方ないから、ボクが特別に遊んであげる!」
「えへへ……返信してくれないから心配で、来ちゃった……♡」
そう言って颯爽と現れた二人に、俺は少しだけ……現実に引き戻される様な感覚を覚える事が出来た。
あぁ……とりあえず、玄関の鍵はちゃんと閉めとかなきゃな。
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