27.仲直り、そして…♡

「しんちゃん……っ!」

「うおっ、上城かみしろ……?!」


 宮地みやじを見送る麻結まゆさんの後ろ姿を呆然と見ていたら、いきなりそんな風によばれて首元に抱きつかれる。


「バカ……ほんとにバカなんだから……!! そんなケガ付けるまで……」


 多分頬のケガの事を言ってるんだろうけど……麻結さんにも上城にも誤解されて、今更宮地に付けられたんじゃなく自分で勝手に転んだだけなんて言えるハズも無く、もうこの際だから黙ってようと思っていた時。


「二人共、大丈夫ですか?……動けない様なら、保険医の先生を呼んできますよ」


 その声に、いつの間にかこっちをいつもの笑顔で見下ろしていた麻結さんの存在に気づき、パッと目が合ってから、俺は内緒とはいえ彼女の目の前で彼女以外の女子に抱きつかれている事に気づく。


「だ、大丈夫だから……な? 上城も……ケガ、無いか?」


 俺は慌てつつもケガが無いかを確認する様な仕草で自然に上城と距離をとる。


「先生、も……助かりました。俺は全然平気なんで、一人で戻れます」


 やっぱり『先生』なんて呼ぶのは抵抗があるけど、上城の前で『麻結さん』なんて呼ぶ訳にもいかないし、『麻結ちゃん先生』は……俺のキャラじゃないし、どっちにしろ何か嫌だけど……。

 まぁ、そんなこんなの葛藤も挟みつつ俺が答えると、麻結さんはいつもの笑顔を投げかけて、「良かったです」と言ってくれた。


「ボクも大丈夫……です」


 俺に続いて麻結さんに向かってそう言う上城を眺めていれば、そういえば……と、今更気づく。


「上城……もう怒ってないのか?」

「……え?」


 そう。

 いつの間にか、上城の俺への当たりが冷たく無くなっているというか……とにかく、元通りと言えるまでになっていたんだ。


「……。あー……」


 ワンテンポ遅れて、上城も俺の言葉の意味が分かったのか、複雑そうな顔をして首に手をやる。


 ……そのまましばらく葛藤していた様だったけれど、上城は俺がそれをじっと待っているのを感じたのか、ぽつぽつと話し出した。


 姉……しずくさんが帰って来て、家に入るなり泣き崩れてしまった事。

 それがどうも、結婚まで約束した人にこれ以上無いって位傷つけられ裏切られてしまったらしいという事。

 男という男を恨む様な姉の言葉を聞いているうち、段々と自分も男に裏切られるんじゃないか、酷い事をされるんじゃないかと思ってきてしまった事。

 修学旅行で久しぶりに会った俺とかの男にどう接して良いのか分からなくて、怖がったらダメだと思ってる内に強がったり冷たくしたり、距離をとったりしてしまった事。


 そして……今ので俺は平気になったけれど、まだちょっと怖い気持ちが残ってるという事。

 克服するにはまだ時間がかかりそうだという事。


「ほんとは……そんな人なんて滅多に居ないって分かってる。……なのに、やっぱりさっきの宮地みやじの事とかもあったし、怖くて……」

「上城……」

「……上城さん」


 大丈夫だなんて無責任な言葉も頑張ろうななんて軽い言葉も違う気がして、俺がそもそも少ない語彙から言葉を選んでいると、麻結さんはそう上城を呼んでしゃがみ込んで視線を合わせた。


「今は……その心持ちだけで十分なんですよ。頑張りましたね」

「っ……先生……」


 言い方は悪いけれど……すぐさまこんな的確に、上城の欲しい言葉を投げかけられるのは流石教師だな……なんて思いつつ、


「……先生」


 ……俺は一つ、聞いておかなきゃいけない事があった。


「はい、何でしょうか?」


 上城の肩を抱きながら、麻結さんがこちらへ視線を送る。


「宮地に、何て言ったんですか?」


 やっぱり、麻結さんにはがあったから……どうしても不安になってしまっていたけれど。


「ふふ、大それた事は言ってませんよ。事実を言ったまでですし、私の出来た事では無いので……虎の威を借る狐でしたね」


 ……遠回しに言ってのける麻結さんの言葉に、大人の権力を使ったのかなぁなんて思考に至らせつつ立ち上がろうとしたその時、


「そうなん……です、ね……」


 すっかり限界値を超えていた事を忘れていた俺は、そのまま無様に後ろに倒れて……そのままぐっすりと眠りこけた。

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