28.恋バナな夜♡
「……あっ」
目が覚めたら保険医の人の所に居た俺は、すっかり処置されていたケガも深くは無かった様で、それより寝不足を何とかしろと言われて帰されていた訳だけれど……ちょうど部屋の扉に手をかけた時、反対側からこちらへ帰って来るしきと……ついでに先生とも遭遇した。
「
「あー……はい。先生が何とかしてくれましたし」
「
「……はい」
「……」
「小森! お前って奴は……いつまで拗ねてんだ!」
「ん……」
「……。はぁ……下川、ルームメイト全員で小森の監視、頼んだからな」
「は、はぁ……」
監視……って、前みたいにまた脱走しない様にって事だろうか。
申し訳無いけど俺は寝てしまう自信しか無いから、絶対二人は居る修学旅行テンションで夜更かしする奴らに任せよう……と、俺が決めていると、先生は勢い良く扉を開く。
「……うおっ?!」
「きゃーっ!」
「やべ、センコーだ!!」
まぁ、必然的にその向こうは……見るも無惨な状態になっている訳で。
男女比もあり普段女子に抑圧されている男子高校生が、貴重な男子のみの空間に動物園化するなと言う方が無理という事なのだろう。
「お前らな〜?!……今何時だと思ってるんだ!」
先生も呆れ半分と言うように声を張り上げると、きゃーきゃー言ったり先生の方がうるさいと反論する者が居たりと、とてもじゃないけどここでこれから寝るなんて考えられない惨状が広がる。
それに先生は深くため息をついてから、
「お前らが落ち着けないのはよっっっく分かった! が、せめて布団には潜って……せいぜい恋バナでもしてろ!! 明日のお前らの事なんて、もう知らんからな……!」
と……強制的に電気を消して、拗ねた様に去って行ってしまった。
「お前らも来いよー、恋バナしよーぜー」
が、それはそれで興味をひくのか、さっきまで猿の様に暴れ回っていたのが嘘の様に布団に潜った一同のうちの一人にそんな風に呼ばれ、俺はチラッとしきの方に視線を移す。
「……」
「えーっと、行くか?」
「……ん」
しきは先生の言った通り、拗ねている様な不貞腐れている様な態度で……背の低さも相まって、何だか酷く子供の様に見えてしまった。
「……お前、先言えよ」
「は?……お前行けよ」
「ここは彼女持ちの貴方様から……」
「はぁ?! 彼女持ちの話なんて一番つまんねぇだろ」
俺達がそれぞれ布団に入ると、そんな様な論争が始まって中々恋バナに入らない。
まぁ、そんな馬鹿な様子も微笑ましく映るのは……やっぱり
きっと宮地が居たら恋バナなんて出来たモンじゃなかっただろうし……宮地の前だとどうしても俺に話しかけにくい空気が出来ていたけれど、居ない今では俺も普通に会話に入れて居る様に感じるし。
「……な、なぁ」
「ん……俺?」
そう思っていたら、早速興味津々と言う様な顔で一人に話し掛けられた。
「……前から気になってたんだけどよ、幼馴染で毎朝一緒に登校してた
そいつの言葉に、一気に間口が開かれた様にざわざわとし出す。
「うわっ、聞いちゃったよこいつ!」
「俺は名高だなぁ……あの視界の暴力には勝てないだろ……!」
「お前には聞いてねぇだろ」
「は? 上城の絶壁が良いんだろ、分かってねぇなぁ……」
「うわ、マジかお前……」
盛り上がってるのは大いに結構なんだけど……何だか身近な人のこういう話題は反応しにくいというか、何と言うか……。
どっちとも付き合ってないと答える準備はしつつ、聞いた割にはいつの間にかアリ派かナシ派か普通派かの下衆論争の三つ巴になっていたので、しばらくは出る幕も無いだろう。
「……しき」
だから……その流れで、俺は聞いてしまったんだ。
「しきはどうなんだ? 浮ついた話とか」
でも……だからって、これが俺の聞いたしきの最後の言葉になるなんて、思いもしなかったけれど。
「……好きな人は、居るよ」
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