37.久しぶりだね♡

麻結まゆ、さん……」

「はい。……お久しぶりですね」


麻結さんは俺の言葉にそんな風に答える。


……距離的には俺以外には聞こえなさそうだけど、上城かみしろ名高なだかが居るから一応敬語なんだろうか。


下川しもかわくん、調子はどうですか?」

「あー……結構回復してきて、多分二学期始まるまでには戻せると思います」

「あら、それは良かったです」


俺の回答に、麻結さんはそんな風に言って嬉しそうに笑った。


「あっ、麻結ちゃん先生だー」

「……」


そのうち、俺が麻結さんと話していた事に気づいたんだろう、上城は軽く泳ぐ様に、名高は浮き輪に捕まりながらぷかぷかと移動して来る。


「こんにちは。上城さん、名高さん」

「こんにちはー!」

「こ、こんにちは……」


名高は相変わらず人見知りしていたけど、そんな風な会話になって、一瞬で和やかな空気になる。


「麻結ちゃん先生は何か用事?……あっ、泳ぐの?」

「ふふっ、私は泳ぎませんよ。貴方達が来たので、ライフガードとして居る様に言われて来たんです」

「へぇー!……じゃあ、ボク達が帰るまではここに居ても良いって事?」

「そうですよ。居なきゃいけませんから」

「ほんと?!……じゃあ遊ぼ!」

「あらあら」


上城は不意に合う先生の存在が楽しいのか、そんな様に麻結さんにだる絡みする。


俺でさえ全然話せてないのに……とちょっと不満になってしまっていると、麻結さんは何かを思いついた様に言った。


「では……ゲームでもしましょうか」

「……ゲーム?」

「はい。上城さん、名高さん、下川くんの三人が参加者で、プールで出来る遊びをしましょう。……勝った人には、私の今朝撮った面白い写真をプレゼントしますよ」

「へぇー! 面白そう!」


今朝撮った面白い写真……気になるな。


麻結さんがどんなものを面白いと思うのか単純に興味があったので、勿論俺も参加しようと思ったけど、


「……待って、プレゼントって言った?」

「はい、言いましたよ」

「それって……麻結ちゃん先生からスマホに送られて来るって事?」

「そうですね。それが早いと思います」

「って事は……麻結ちゃん先生の連絡先がゲット出来ちゃうって事じゃない?!」

「……ふふっ、頑張ってくださいね」


……その一連で、俺は絶対優勝してやろうと心に決めた。


というか……もし自意識過剰じゃないんだとしたら、これはもしかして麻結さんから設けられた、俺が麻結さんの連絡先を知る理由付け……なのかもしれない。


それなら尚更、何としてでもゲットしなくちゃ。


「ルールは簡単。宝探し、五十メートル泳、素潜りのタイムの三つで一番を多くとれた人の勝ちです。……これでどうですか?」

「はいはい! 賛成ー」

「が、頑張る……」


宝探しはともかく……男でそれなりに運動は出来る方だし、泳ぎは普通の人よりは早いだろうし、素潜りも……要は息をどれくらいとめられるかだろ?


……うん、大丈夫だ。


やっぱり麻結さんも、俺に勝って欲しくてこんな条件で言ってるんだろうな。

これは期待に応えなきゃな……なんて思っていた時、不意に上城が「くっくっくっ」と表せる様な露骨な含み笑いをし出した。


何だ何だと俺が不審に思っていると、上城はなだらかな胸をぐんと張り腰に手を当て、高らかに言ってのけた。


「それならボクの勝ちは決まった様なモノだね!……元水泳部エース、舐めないでよね」

「ふふっ……そうでしたね」


そうだった。

何で忘れてたんだろう。


上城は中学の頃は水泳部のエースで、だからクラス別の選抜水泳にも出られなかったって本人から聞いたし、大会でもたった一人の活躍でかなりの所間で登り詰めたって、うちの学年では伝説になる位語り継がれている話なのに。


「さぁ、かかって来なさいっ!……ボクは容赦しないよっ!!」


あー……終わったかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る